推定20年代頃、王立イタリア陸軍(赤十字部門)『ソルト&ペッパーコットン スタンドカラージャケット』になります。
王立イタリア陸軍(Regio Esercito / Royal Italian Army)とは、1861年にイタリア統一によって創設された正規陸軍であり、サヴォイア家によるイタリア王国体制のもと、20世紀半ばまでイタリア国家の軍事力を支えてきた存在です。
その源流は古代ローマ時代にまで遡る長い軍事伝統にあり、中世・ルネサンス期・そして19世紀のリソルジメント(統一運動)を経て、ヨーロッパ随一の軍事的・文化的遺産を引き継ぐ軍隊として、特異な立ち位置を占めていました。
1861年、ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世を国王とするイタリア王国が成立すると同時に、各地の軍組織が統合される形で『王立イタリア陸軍(Regio Esercito)』が発足。
以後、イタリア軍は19世紀末の植民地戦争(エリトリア・リビア)や、オスマン帝国との伊土戦争(1911–1912)に参戦し、海を越えた遠征経験を積む事になります。
第一次世界大戦では、オーストリア=ハンガリー帝国とのアルプス山岳地帯での熾烈な戦いに従軍。
塹壕線・山岳戦を中心とした消耗戦において多大な犠牲を払いながらも、最終的に戦勝国の一員として戦後の領土拡張を果たしました。
続く第二次世界大戦では、ムッソリーニ政権下の枢軸国としてアルバニア・ギリシャ侵攻、北アフリカ戦線、ソ連戦線、更にはバルカンや国内での対パルチザン戦など、広範囲にわたる戦域へ派遣されました。
但し、兵站・装備の不備、指揮系統の混乱などが重なり、必ずしも戦果は芳しくなく、特に1943年の休戦(イタリア無条件降伏)以降は国家分裂状態となり、『イタリア王国軍』対『イタリア社会共和国軍』という事実上の内戦状態も引き起こされました。
1946年、国民投票によって王制が廃止され、王立イタリア陸軍はその歴史に幕を下ろします。
これをもってイタリア共和国が正式に成立し、以後は現行の『イタリア共和国軍(Forze Armate Italiane)』として再編され、現在に至るまで陸軍・海軍・空軍・軍警察(カラビニエリ)を含む体系が維持されています。
そんな王立イタリア陸軍にて、赤十字部門(Red Cross)で着用されていた1着のご紹介です。
王立イタリア陸軍赤十字部門(Croce Rossa Italiana - Corpo Militare del Regio Esercito)とは、イタリア王国時代に設置された赤十字の軍事部門であり、戦時下における衛生・医療支援を担った準軍事的組織です。
この部門の起源は1866年、普墺戦争への対応として発足した "Corpo di Soccorso" に遡りますが、正式な組織としての定義と編制は、1908年の政令および第一次世界大戦への参戦を通じて整備されました。
以後、王立イタリア陸軍(Regio Esercito)の支援組織として、戦地における負傷兵の救護・搬送・衛生業務を担う特別任務部隊として機能します。
従軍看護婦団(Crocerossine)や衛生兵の制服・医療用装備品・階級章などは、王立イタリア軍の中でも極めて特異な美意識と制度を反映した存在であり、兵科を越えて人道支援の象徴とされました。
1946年、イタリア王政の廃止に伴い王立陸軍と共に制度上の役割を終えたものの、赤十字軍事部門はその後も形を変えて現在のイタリア赤十字軍事団(Corpo Militare Volontario CRI)として存続。
平時・災害・国際任務などにおいても活動を続けています。
当個体は、1920年代頃の王立イタリア陸軍において、衛生部門や後方勤務に従事する兵士の為に支給されたと考えられます。
無駄を排した簡素な設計の中に、当時の軍装思想や用途特化の構造美が凝縮されています。
襟はスタンドカラーで、第一ボタンを留めると首元をしっかりと覆う設計。
両襟先には金属製の星型襟章が取り付けられ、その中央には赤十字章が刻まれています。
これらは衛生兵や医療従事者である事を示す重要な識別ディテールであり、実戦環境における役割を視覚的に明確化しています。
襟章はピン留め式で、裏面に微細な座金が残存しており、当時のままの構成を維持しています。
右裾部には大判のパッチポケットを単独で配置。
角に丸みを持たせた袋布は、縁取りの縫製ピッチが荒めで、短期間での大量生産を意識した仕立てとなっています。
フロントは、僅か3つのミニマルな前合わせ。
ボタン間隔はやや広く、着脱の容易さと換気性を重視した作りで、ボタンホール周囲には太番手の糸での補強ステッチが確認出来ます。
前立ての打ち合わせ幅は深く取られており、風や埃の侵入を防ぐ役割も果たしています。
袖はセットインスリーブ仕様で、肩線はやや後方にずらして縫製され、肩周りの可動域を確保。
袖口にはカフスを持たない筒袖構造を採用し、手首の締め付けを避ける事で作業性を高めています。
袖先の切り替えパネルは、直線ではなく僅かに角度を持たせた縫い合わせとなっており、腕の屈伸に伴う生地の張りを緩和しています。
当個体は、"コットン100%" のごま塩生地を採用。
高密度に織り上げられた高オンス地は、軍用衣料らしい堅牢さを備えながらも、繊維そのものに僅かに柔らかみを残しており、着込む程に身体の動きに沿ってしなやかに馴染みます
糸色は生成りと墨色を交互に配し、遠目には霜降り調に映る独特の杢感を表現。
これにより、生地表面は陰影に富み、光の角度や環境によって砂色から鉛色へと表情を変えます。
カラーは、ライトグレーを基調としつつも単調ではなく、織り込まれた異なる色糸が微細な色ムラを生み出し、経年に伴い更に深みを増していきます。
洗いと着用を重ねる事で毛羽が徐々に落ち、杢目のコントラストがより鮮明になり、ヴィンテージ特有の奥行きを帯びた発色へと変化していきます。
サイズ表記は確認出来ませんが、日本サイズで "M ~ L" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても日本人体型に合うゴールデンサイズかと思いますので、幅広い体型の方にご着用頂けるかと思います。
汚れ・変色等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージ見受けられませんので、まだまだご着用頂けるかと思います。
王立イタリア陸軍・赤十字部門にて使用されていた、1920年代頃のスタンドカラージャケット。
簡素な設計に込められた、職務と機能に即した美しさ。
星型襟章と赤十字の刻印が、その任務の誇りを静かに物語ります。
時代の空気を纏ったユニフォームとして、コレクションにも日常着にも応える逸品です。
ワードローブとしては勿論、コレクションアイテム・デザインソースとしても申し分ない1着。
国内外問わず滅多にお目にかかれない逸品かと思いますので、探されていた方や珍しいアイテムが好きな方はこの機会をお見逃しなく。