推定30年代頃、イギリス製『オレンジコットンドリル ワークジャケット』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
いやぁ、変。変です。
……いや、語弊がありますね。正確に言い直しましょう。
異常に良い。
当店では今まで多くのブリティッシュワークウェアをご提案してきましたが、この個体を初めて目にした時の衝撃は、ちょっと言葉にし難いものがありました。
何せ、オレンジですから。
1930年代のブリティッシュワークウェアが、オレンジ。
当時のワークウェアに許されていた色彩の中で、この鮮烈なオレンジがどういった経緯で生まれたのか。
その答えは恐らく永遠に判らないのですが、だからこそ面白い。
判らないからこそ、惹かれる。
WLB Water Lane Brand(ウォーターレーン ブランド)とは、ヴィクトリア朝時代にまでその起源を遡るイギリスの老舗ワークウェアメーカー。
ブランド名の由来は、最初の工場が建っていた通りの名前 "Water Lane(ウォーターレーン)" から。
1924年に正式にブランドとして登録され、20世紀前半を通してイギリス国内のワークウェア市場において多大な存在感を放っていたとされています。
親会社は "W.M. Sugden(W.M.サグデン)" という企業で、実は現在もシャツの製造を続けているという、脈々と受け継がれる英国のモノ作りの伝統を体現する存在。
当時の Water Lane Brand は、シャツからジャケット、オーバーオールに至るまで幅広い労働着を手掛けており、イギリスの産業を衣服の側面から支え続けた、正に英国ワークウェア史の生き証人とも言えるブランドです。
さて、当個体の話に戻りましょう。
まず目を惹くのは、何と言ってもこのカラーリング。
ブリティッシュワークウェアにおいて、これ程までに発色の良いオレンジカラーの個体は極めて希有。
マリーゴールドを思わせる暖かみのあるオレンジは、90年以上の歳月を経てなお、その鮮やかさを失っていない。
この色を見ているだけで、夕暮れ時のイングランドの麦畑が浮かんでくる。
そんな、情景すら想起させるカラーです。
そしてこの個体の凄みは、色だけに留まらない。
ディテールの一つひとつが、実に "只者ではない" のです。
まず、襟。
一般的なワークジャケットに見られるスタンドカラーやラウンドカラーではなく、襟先が鋭角に削ぎ落とされた様な、独特の変形襟が採用されています。
Vゾーンが深く開く設計となっており、首元に適度な抜け感を演出。
この襟型が生み出す表情は、ワークウェアのそれではなく、明らかにテーラードジャケットの品格を宿しています。
続いて、胸ポケット。
左胸に配された大型のパッチポケットは、上辺が斜めにカットされた所謂 "ペインターズポケット" スタイル。
アメリカンワークウェアのペインタージャケットに見られるこの特徴的なポケット形状が、1930年代の英国ワークジャケットに搭載されているという事実に、思わずニヤリとしてしまいます。
大きめに取られたポケットサイズは、道具を多く収納する必要がある職種の恐らく塗装工や左官職人等を想定したものかと推測されますが、現代のスタイリングにおいてはポケットチーフを挿したり、スマートフォンを収めたりと、実用面でも大いに活躍するサイズ感。
裾部の左右にも大型のパッチポケットが配され、胸ポケットと合わせて計3ポケット構成。
裾ポケットはオーソドックスな長方形ですが、十分な容量が確保されており、日常使いにも申し分ありません。
背面に目を移すと、センターバックシームが一本通り、裾部にはセンターベントが設けられています。
このセンターベントは、テーラードジャケットに由来するディテール。
ワークジャケットにセンターベントを採用するという設計思想が、この個体の "ワークなのにワークではない" 上品な佇まいの正体と言えるでしょう。
裾先のカッティングも、サックコートを彷彿とさせる、緩やかなカーブを描いた処理が施されており、全体のシルエットに品の良さを加えています。
袖の設計も秀逸です。
前振りの袖付けが採用されており、着用時に腕が自然と前方に出る人体の構造に沿った設計。
この前振り袖が、ワークジャケットとしての動き易さを担保しながら、同時に着用時の美しいドレープを生み出す。
機能と美の両立を、何の衒いもなく実現しているところに、英国ワークウェアの底力を感じます。
袖口のディテールも見逃せません。
元々折り返された状態で設計されており、折代が予め縫い付けられた仕様。
ターンバック部分にはホワイトのボタンが一つ配され、視覚的なアクセントとして機能しています。
首元内側には、 黒地に橙色の "WLB Water Lane BRAND" 社製の "刺繍タグ" が付属。
このラベルのデザインもまた、ヴィクトリア朝の意匠を感じさせるクラシカルな書体が用いられており、ブランドの歴史と矜持を物語っています。
当個体は、"コットンドリル(綾織り)" 100%を採用。
通常、コットンドリルと言えばミリタリーやワークウェアで多用される、やや地厚でタフな印象の綾織り生地ですが、当個体に使用されている生地はそのイメージとは随分と異なります。
非常に柔らかく、薄手で、サラッとした肌触り。
ドリル織り特有の斜めの畝はしっかりと確認出来るものの、その手触りは寧ろシャツ生地に近い軽やかさ。
真夏を除けば年間を通してご着用頂けるであろう、季節を選ばない汎用性の高さが魅力です。
ファッション感度の高い方に、心からお勧めしたい一着。
こういった個体に出会える事自体が稀であり、出会えた時にこそ手に取るべき——そう思わせてくれるジャケットです。
サイズ表記は確認出来ませんが、日本サイズで "M" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても日本人体型に合うゴールデンサイズかと思いますので、幅広い体型の方にご着用頂けるかと思います。
ジャストサイズ・オーバーサイズのどちらで着用しても様になるかと。
汚れ・ほつれ・小穴等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージ見受けられませんので、まだまだご着用頂けるかと思います。
1930年代・英国ワークウェア・オレンジカラー・ペインターズポケット・変形襟・センターベント。
これだけの要素が一着の中に共存している個体を、今後再び見つける事が出来るかと問われれば正直、相当難しいと思います。
ヴィンテージの世界では "出会った時が買い時" とはよく言ったもので、こればかりは再入荷のお約束が出来ない類の個体です。
唯一無二のカラーリングとディテールを備えた、真の意味での一点モノ。
気になった方は、どうかこの機会をお見逃しなく。