推定40年代頃、ドイツ軍『トロピカルフィールドトラウザーズ』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
ドイツ軍(Wehrmacht)とは、ナチス・ドイツ期において国家の正規軍として再編された統一軍であり、陸軍(Heer)・海軍(Kriegsmarine)・空軍(Luftwaffe)の三軍を束ねる枠組みとして、1935年から1945年まで存在した軍事組織です。
第一次世界大戦後、ヴェルサイユ条約によってドイツの軍備は厳しく制限され、特に軍用航空力は禁じられましたが、その制約を突き崩す形で再軍備が進み、1935年には徴兵制の再導入と同時に空軍(Luftwaffe)の存在が公表され、国家総力としての軍拡体制が表舞台に現れます。
こうして整えられたWehrmachtは、ナチス政権の対外膨張政策を実行する "軍事の器" として機能し、第二次世界大戦の開戦とともにその役割を決定的にします。
ポーランド侵攻(1939年)から西方での電撃戦(1940年)に至る初期局面では、機甲部隊の機動と航空戦力の連動により作戦展開を加速させましたが、戦争が長期化するにつれ、英本土航空戦(1940年)での制空権獲得失敗、更に独ソ戦の泥沼化などを経て、消耗戦の中で戦略的優位を失っていきます。
1945年5月のドイツ無条件降伏後、連合国による武装解除と占領統治が進み、1946年8月20日には連合国管理理事会の『管理理事会法 第34号(Kontrollratsgesetz Nr. 34)』により、Wehrmachtは法的に解体・廃止されました。
戦後ドイツは一旦 "軍を持たない状態" を経たのち、冷戦構造の中で再軍備が東西別々に進行します。
西ドイツでは1955年に連邦軍(Bundeswehr)が創設され、東ドイツでは1956年に国家人民軍(NVA)が組織されましたが、いずれもWehrmacht期とは制度・統制理念を異にする新編軍として位置づけられます。
当時のドイツ軍装は、機能要件を起点に "見え方" まで統合する分業体制で磨かれました。
意匠面では、SS黒制服などの外観設計に美術家 "Karl Diebitsch(カール・ディービッチ)" やグラフィックデザイナーの "Walter Heck(ヴァルター・ヘック)" といった専門職が関与し、シルエット・配色・装飾の標準化を推進。
一方、実製造は "Hugo Boss" 社を含む複数の縫製メーカーが担い、官給規格に基づく量産と品質管理を分担しました。
しばしば "デザイン = Hugo Boss" と誤解されますが、実態は『設計(官庁・デザイナー)× 製造(サプライヤー)』の分業となっています。
そんなドイツ軍より、第二次世界大戦下の夏季野戦制服として支給・着用されていた "Tropical Field Trousers" のご紹介です。
所謂 "トロピカル" ならではの設計思想が、ディテールの隅々にまで宿っています。
"DAK(Deutsches Afrikakorps)" でも酷似したディテールを持つモデルが存在する様に、熱帯地域を想定したトラウザーズ特有の系譜を感じさせます。
まず目を奪われるのが、イギリス軍グルカパンツを彷彿とさせるウエスト周りのベルトディテール。
日本国内での流通量が極めて少ないモデルでありながら、この『一目で分かる腰の主張』を持っているのが最大の魅力です。
ミリタリーをベースにしつつ、ファッション的にはグルカの文脈でも拾える。
その絶妙な立ち位置が堪りません。
ウエスト調整は、基本的に "針刺しバックル" で行う仕様。
ベルトループに頼らず『腰で決める』タイプの設計なので、トップスをタックインした際の完成度が高く、腰回りがそのままスタイリングの主役になります。
加えて、ウエストバンド内側にはサスペンダーボタンが付属。
ベルトでギュッと締めて穿くのも良いですが、サスペンダーで吊ると股上の深さと生地の落ち感が素直に出て、より "トラウザーズ然" としたシルエットに。
気分や体型、合わせる靴に応じて穿き方を変えられるのも、この年代ならではの贅沢です。
フロントポケットは、サイドシームに沿う配置ではなく、前身頃にスラッシュポケットとしてレイアウト。
この取り方が腰回りの視覚的な間延びを防ぎ、ミリタリーの無骨さを残しながらも、どこか都会的な収まりを作ります。
更にポケット口の作りが立体的で、手の入れやすさと容量を両立している点も見逃せません。
バックポケットは右臀部のみ、且つボタン留めのミニマルな構成。
左右非対称の潔さが、逆にスタイリングの邪魔をしない "抜け" を作ってくれます。
背面がうるさくならないので、ジャケット合わせでも品良く纏まるのがこの仕様の強みです。
前合わせはボタンフロントで、ボタンホールは時代を感じられる手縫いのボタンホール。
不均一さが残る縫いの表情が、量産品には出せない空気を纏わせています。
各部ボタンはアルミ製で、控えめな光り方と経年の鈍い艶が、カーキオリーブの色調に心地良いコントラストを添えています。
そして内側には、ドイツ軍官給品の証であるオリジナルスタンプが綺麗に残存。
こうした情報がしっかり読み取れる個体は意外と少なく、ヴィンテージとしての価値を底上げしてくれる重要なポイントと言えます。
シルエットは、太過ぎず細過ぎないストレートシルエット。
強いディテールを持ちながらも脚のラインは素直で、革靴からスニーカーまで受け止める懐の深さがあります。
既にグルカパンツを持っている方や、他の人と被りたくない天邪鬼な方には、正に刺さるはずです。
当個体は "コットン100%" 生地を採用。
乾いたタッチのコットンツイル生地で、熱帯向けらしい軽快さと、軍用服ならではの頼もしさを併せ持った質感。
表面には綾目がうっすらと立ち、のっぺりしない奥行きがありながら、肌離れの良さも感じさせます。
タフな素材感ながら、穿き込む程に硬さが抜けて身体に馴染み、皺の入り方やアタリがそのまま表情になります。
カラーは、くすみと深みを備えたカーキオリーブカラー。
黄味とオリーブが溶け合ったカーキオリーブは、土埃や日差しを思わせる様な "乾いた温度感" を纏い、ミリタリーらしい説得力を静かに放ちます。
綾目の陰影が光の当たり方で濃淡を生み、見る角度によって、僅かなグラデーションが浮かび上がるのもこの生地ならでは。
落ち着いたカーキの中に潜む "軍服特有の色気" を、素直に楽しめるカラーリングと言えるでしょう。
サイズ表記は "180 / 134 / 82"
日本サイズで "M ~ L" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても日本人体型に合うゴールデンサイズかと思いますので、幅広い体型の方にご着用頂けるかと思います。
生地特有のアタリ・汚れ・擦れ・ほつれ・小穴・破れ等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージ見受けられませんので、まだまだご着用頂けるかと思います。
近年、とりわけドイツ軍アイテムへの注目は一段と高まっています。
一方で、歴史的背景も相まって現存数は極めて少なく、需要に対して供給が追いついていないのが実情です。
熱狂的な愛好家が一定数存在する分野でもあり、コレクターが手放しにくい "垂涎のアーカイブピース" である事は間違いありません。
お金を出せば買えるような代物ではなく、今後入荷できるかも確約が出来ません。
ワードローブとしては勿論、コレクションアイテム・デザインソースとしても申し分ない1着。
国内外問わず滅多にお目にかかれない逸品かと思いますので、探されていた方や珍しいアイテムが好きな方はこの機会をお見逃しなく。