1986年支給、チェコスロヴァキア人民軍『タンククルージャケット』になります。
チェコスロヴァキア人民軍(Czechoslovak Army)とは、かつて中欧に存在したチェコスロヴァキア社会主義共和国の正規軍であり、国家主権と社会主義体制を支える軍事的基盤として機能していました。
現在は、チェコ共和国(Czech Republic)とスロヴァキア共和国(Slovak Republic) とに分裂して別々の国家となっていますが、かつて両国は1918年から1992年まで『チェコスロヴァキア共和国(1918–1960)』・『チェコスロヴァキア社会主義共和国(1960–1990)』という統一国家を構成しており、人民軍はその期間を通じて国家軍として存在していました。
起源は第一次世界大戦後の1918年、オーストリア=ハンガリー帝国の解体に伴い誕生したチェコスロヴァキア共和国軍に遡ります。
第二次世界大戦ではナチス・ドイツの占領を受け、軍機能は一時的に喪失しましたが、戦後の再独立に伴いソ連の影響下で社会主義国家として再編成され、軍も『人民軍』としての性格を強めていきました。
冷戦下では、東側陣営(ワルシャワ条約機構)の一員としてソ連軍と緊密に連携し、特に陸軍戦力の充実と国境警備体制の整備に注力。
装備・制服・訓練体制に至るまで、ソ連型軍制の影響を色濃く受けながらも、独自の工業基盤による武器・装備の自国開発も行っていた点は特筆すべき特徴です。
また、1950年代〜80年代にかけては、機械化歩兵・空挺部隊・化学兵器部隊など多様な兵科を展開し、戦略的要地である中欧において東側の防衛線の中核を担っていました。
1990年の東欧革命と社会主義体制の崩壊を経て、チェコスロヴァキアは連邦制のもと民主化され、1993年の『ビロード離婚(Velvet Divorce)』によって平和的に分裂。
それぞれチェコ軍及びスロヴァキア軍として新たな歩みを始めました。
当個体は、そんなチェコスロヴァキア社会主義共和国期に "CSLA(Československá Lidová Armáda = チェコスロヴァキア人民軍)" で着用されていたとされる、タンククルー(戦車兵)用のジャケットになります。
タンククルー、つまり戦車乗員。
彼らは狭く高温多湿な戦車内部で長時間の作戦行動を強いられる、過酷な任務に従事する兵科です。
戦車内は金属で囲まれた密閉空間であり、エンジンの排熱や砲撃時の発射ガスにより、夏場は灼熱、冬場は極寒という極限環境。
その為、タンククルー用のジャケットには、一般的な野戦服とは異なる独自の設計思想が求められました。
狭いハッチからの乗降を妨げない短めの着丈、突起物に引っ掛からないスムースなシルエット、そして高温環境下でも蒸れにくい通気性。
このジャケットは、そうした実戦的要求に応える為に設計された、正に "戦う為の道具" としてのウェアなのです。
そして、この個体の最大の魅力は、何と言ってもこの凄まじい褪色具合。
各国のミリタリーアイテムにおいて、ブラックカラーというのは実は珍しい存在です。
多くの場合、オリーブドラブやカーキといった自然色が採用され、ブラックは後染めによって生み出される事が殆ど。
しかし、チェコスロヴァキア人民軍のタンククルージャケットは、オリジナルからブラックカラーで製造されているという点が特筆すべきポイント。
戦車内部という閉鎖空間での運用を前提としている為、野戦における迷彩効果よりも、油汚れや煤が目立ちにくいブラックが採用されたものと推測されます。
で、この個体。
そのオリジナルブラックが、約40年という歳月を経て、実に味わい深い墨黒へと変化しています。
全体に均一に進行した褪色は、まるでストーンウォッシュを施したかの様な柔らかさを纏っており、元のブラックの深みを僅かに残しながらも、墨黒ともチャコールグレーとも言える独特の色調へと昇華されています。
デッドストックから育てようと思ったら、恐らく10年、20年という時間が必要になるであろうこのフェード感。
それが既に完成された状態で手に入るというのは、ある意味で贅沢な事なのかもしれません。
ディテールも実に興味深い。
まず目を惹くのは、右前立て部のみに配置された大振りなフラップ付きパッチポケット。
左右非対称というこのデザインは、戦車内での動作を考慮したものと推測されます。
戦車内は極めて狭く、乗員は常に身体を捻りながら移動する必要がある為、片側にのみポケットを配置する事で、反対側の身体の動きを妨げない設計になっているのではないでしょうか。
襟元には、チンストラップが付属。
襟を立ててボタンで固定する事で、スタンドカラースタイルへと変化させる事が可能です。
戦車のハッチから上半身を出して周囲を警戒する際、風や砂塵から首元を守る為のディテールですが、現代のファッションにおいては、スタイリングの幅を広げてくれる嬉しい仕様。
襟を寝かせてラフに着ても良し、立ててミリタリー感を強調しても良し。
着用シーンに応じた表情の変化を楽しめます。
裾部には、アジャスターベルトが付属。
フィット感の微調整が可能なこの仕様は、戦車内での作業時にジャケットの裾がもたつく事を防ぐ為のディテールです。
内側には、左右で異なる形状のポケットが配置されているのも見逃せないポイント。
恐らく、収納するアイテムの種類に応じて使い分ける事を想定した設計でしょう。
こうした細やかな配慮が、このジャケットが単なる制服ではなく、実戦を想定した "道具" であった事を物語っています。
内側の背面には、白いHBT生地のラベルが縫い付けられており、薄らと "1986" の年代スタンプと "3B" のサイズ表記が確認出来ます。
この白いラベルが、褪色したブラックボディに対して良いコントラストを生み出しており、ジャケットを脱いだ際にチラリと覗くこのディテールが、実に良い味を出しています。
当個体は、"コットン100%" の平織り生地を採用。
密に織り上げられたコットンキャンバスは、適度な厚みと耐久性を備えており、ワークウェアやミリタリーウェアに相応しいタフな質感。
経年により程良く馴染んだ風合いは、硬さを感じさせない柔らかな着心地を実現しており、長時間の着用でもストレスを感じさせません。
カラーは、前述の通り、オリジナルブラックから褪色したフェードブラック。
単純なグレーとは異なる、ブラックの深みを残した独特の色調は、人の手では決して再現出来ない、時間だけが生み出せる唯一無二の表情。
部分的に濃淡が生まれた不均一な褪色のグラデーションが、実に味わい深い。
このフェード感こそが、この個体が纏う最大の魅力であり、ヴィンテージミリタリーの醍醐味と言えるでしょう。
サイズ表記は "3B"
日本サイズで "L ~ XL" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても大きなサイズ感となりますので、大きな体型の方でも問題なくご着用頂けるかと思います。
ジャストサイズ・オーバーサイズのどちらで着用しても様になるかと。
褪色・生地特有のアタリ・汚れ・擦れ・ほつれ等の使用感が見受けられます。
特に首元内側部に擦れ・ほつれが確認出来ますが、着用に大きく支障をきたすダメージではありません。
オリジナルブラックという希少なカラーリング。
約40年の歳月が生み出した、唯一無二のフェード感。
戦車乗員という特殊な任務に特化した、実戦的ディテールの数々。
そして、既に存在しない国家の軍隊という、歴史的ロマン。
フェードブラックの魅力をご理解頂ける方、東欧ミリタリーの世界観に惹かれる方に、心からお勧めしたい逸品です。
是非この機会をお見逃しなく。