1986年製、Barbour(バブアー)製『スペイジャケット』になります。
Barbour(バブアー)とは、1894年に創業者 "John Barbour(ジョン・バブアー)" がイングランド北東部サウスシールズのマーケット・プレイスで創業した、英国発のアウトドア / カントリーウェアの老舗ブランド。
海風と雨に晒される水夫や漁師の為に供給したオイルスキン(防水衣)を原点に、"天候に抗うための衣服" を磨き上げてきました。
1908年、二代目 "Malcolm Barbour(マルコム・バブアー)" が初の通信販売カタログを制作。
1917年には売上の約75%を通信販売が占めるまでに成長し、南米チリや香港まで国際的に出荷されました。
英国の気候と生活に根差した機能服は、早くから "遠くの街のユーザー" にも届いていたのです。
1936年、三代目 "Duncan Barbour(ダンカン・バブアー)" は、国際6日間トライアル(ISDT)の為に開発した一体型ワックススーツ "Barbour International(A1 スーツ)" を発表。
これが戦時下には二分割化され、英潜水艦部隊の標準装備 "Ursula Suit(ウルスラ・スーツ)" へ発展します。
戦後は市民のモーターサイクルウェアとして普及し、1950年代〜70年代にはISDTのライダーの大半が "Barbour International" を着用。
1964年の東独大会では米国代表チームとスティーブ・マックイーンもバブアーを入手して参戦するなど、機能=実績がブランドの名声を確立しました。
このブランドの最大の魅力は、仕立て屋の精密さと工業的スケールの融合という矛盾を、見事に両立している点にあります。
一言でいえば『仕立ての哲学を持った工業製品』。
ワックスド・コットンがもたらす防水・防風・耐久に、スロートラッチやマップポケット・ウエストベルト・着脱式ライナーといった合理的なディテールを重ね、プロフェッショナルの要求に応えながら都市生活にも違和感なく溶け込むエレガンスへと昇華してきました。
また、品質への揺るぎない信頼は、王室御用達(ロイヤル・ワラント)という形でも証明されています。
バブアーは1974年にエディンバラ公、1982年にエリザベス女王、1987年にプリンス・オブ・ウェールズ(のちの国王チャールズ三世)から拝受。
体制移行に伴う審査を経て、2024年には国王チャールズ三世より新たなロイヤル・ワラントが与えられました。
王室が認める "実用品" である事。それはブランドの原点と現在をまっすぐに繋ぐ証です。
現在も本社と自社工場はサウスシールズ(Simonside)に置かれ、Bedale / Beaufort 等のワックスド・コットン・ジャケットを職人の手作業で製造。
修理・リワックス・リラブ(再整備再販)まで一気通貫で担い、衣服の "寿命" を延ばす循環型のものづくりを続けています。
今回ご紹介する物は、1982年〜1987年の期間のみ生産されていた、2クレスト期の個体となる "SPEY JKT(スペイジャケット)" となります。
乗馬用モデルとして名高い "BEDALE"、狩猟用モデルとして確固たる地位を築く "BEAUFORT" 等、使用用途によって明確にモデル分けされているバブアーの設計思想。
その中で "SPEY" に与えられた役割は、フライフィッシング。
イギリス貴族の嗜みとして始まったとされる、欧米式の毛針であるフライを使う釣りの方法に特化して生まれたモデルです。
生産期間は1970年代後半〜2001年までとされていますが、ここで注目して頂きたいのが、当個体のラベルに記された紋章の数。
バブアーのヴィンテージを語る上で避けて通れない "クレスト" の話。
当個体に記されているのは、1974年拝受のエディンバラ公と1982年拝受のエリザベス女王、二つのロイヤル・ワラントが並ぶ "2クレスト" 仕様。
つまり、1987年にプリンス・オブ・ウェールズのワラントが加わる以前の、1982年から1987年の間に製造された個体という事になります。
スペイモデルと言えば、市場で目にする機会が比較的多いのは "3クレスト期" の個体。
2クレスト期のスペイとなると、その数は格段に少なくなります。
ディテール面で両者に大きな差異があるかと言えば、正直なところ殆どありません。
しかし、ヴィンテージを愛する者として、この "時代の差" は譲れない拘りではないでしょうか。
3クレスト期でも十分に素晴らしい。
けれど、2クレスト期を手にした時の高揚感は、やはり別格なのです。
さて、スペイの最大の特徴は何と言っても、バブアー随一の "超ショート丈" 仕様でしょう。
フライフィッシングを行う際に水の侵入を防ぐ為、水面に浸からない丈感で仕立てられているという、極めて理に適った設計から生まれたシルエットです。
比較的ショート丈にあたるモデルとしては "TRANSPORT JACKET" も挙げられますが、それでもウエストより少し長めの設計。
スペイほど振り切った丈感を持つモデルは、バブアーの長い歴史を見渡しても他にありません。
バブアー特有のブラウンコーデュロイ仕立ての襟は、立体感のある太畝仕様。
襟を立てた時のボリューム感と暖かみは、このコーデュロイ襟あってこそ。
襟裏に配されたチンストラップにより、襟を立てた状態での固定が可能となっており、風の強い日でも安定した着用が叶います。
腰部には大型のフラップポケットが左右に配置。
そして胸部にはレザータブ付きの真鍮Dリングが計2個。
このDリングは本来、釣具やランディングネット等を固定する為のものですが、鍵やカラビナを引っ掛ける等、現代の日常使いでも何かと重宝するディテールかと。
前合わせには、ダブルジップファスナーとスナップボタンでの比翼式の二重構造を採用。
ジップスライダーには "YKK" 社製のリングジップが採用されており、グローブを着用した状態でも容易に開閉が可能に。
スナップボタンには "BARBOUR" の刻印が入ったオリジナルパーツが使われており、細部に至るまでブランドの矜持が宿っています。
更に、ライニング上部にはバブアーお馴染みのタータンチェック、下部にはナイロン製のドリップストリップが配されており、フィッシングジャケットとしての用途を満たしつつも、視覚的にも楽しめる仕立てとなっています。
使用されているワックスドコットンの厚さは "6オンス" のミディアムウェイト。
ビデイルやビューフォート等の定番モデルにも採用されているオンス数であり、バブアーのワックスドコットンとしては最もベーシックな厚さと言えるかと思います。
厚すぎず薄すぎず、3シーズンに渡って活躍してくれる絶妙な塩梅。
経年によりオイルが適度に抜け、ワックスドコットン特有の "育ち" を感じさせる質感へと変化しているのも、ヴィンテージ個体ならではの魅力です。
カラーは、バブアーらしさを物語るセージグリーンカラー。
深いオリーブグリーンをベースに、経年変化によって生まれた濃淡のグラデーションが、唯一無二の表情を作り上げています。
新品では決して手に入らない、時間だけが描ける色彩。
ワックスの残り具合や擦れによって、一着として同じ表情にはなり得ない。
それがヴィンテージバブアーの醍醐味です。
ブラウンコーデュロイの襟との色合わせも実に英国的。
セージグリーンとブラウンという、カントリーサイドの風景をそのまま纏ったかの様な配色は、どこか牧歌的で、それでいて端正。
内側から覗くタータンチェックが、控えめながらも確かなアクセントとして全体を引き締めています。
サイズ表記は "MEDIUM"
日本サイズで "M ~ L" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても日本人体型に合うゴールデンサイズかと思いますので、幅広い体型の方にご着用頂けるかと思います。
アームホール・身幅も大きくゆったりとした作りとなっている為、中に着込んでのスタイリングも十分に楽しめるサイズ感です。
また、一枚袖仕様ですので、多少大きめのサイズ感でも綺麗なシルエットで着用出来るかと思います。
汚れ・コーティング剥離・オイルムラ等の使用感、及びヴィンテージオイルドクロス特有の臭いはございますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
現行・ヴィンテージバブアー共に圧倒的な人気を誇る "SPEY"。
その中でも2クレスト期の個体は、市場に出回る3クレスト期と比較して格段に数が少なく、出会える機会は極めて限られています。
現行とは比べ物にならない程のオーラを放つヴィンテージバブアー。
それもヴィンテージバブアーを選んで頂く大きな要因の一つではないでしょうか。
当ショップでも入荷の少ない希少なモデル、しかも2クレスト期。
お探しの方がいましたら、この機会をお見逃しなく。