推定80年代頃、Willis&Geiger(ウィリス&ガイガー)製『ブッシュポプリン クウェイルコート』になります。
米国製。
Willis&Geiger(ウィリス&ガイガー)とは、1902年に北極探検家ベン・ウィリスによって北極探検の為の衣類を開発する事から始まり、1928年には実業家のハワード・ガイガーが経営に参加し正式に設立された、アメリカ合衆国の伝説的なアウトフィットブランド。
当ブランドは、1930年代にアメリカの上流階級層の間でサファリ旅行ブームになった際、いち早くサファリクロージングを販売。
テオドア・ルーズベルト、チャールズ・リンドバーグ、アメリア・イアハート、エドムンド・ヒラリー卿等、20世紀の伝説的な人物達が愛用し、その名声を確固たるものにしました。
特に1931年にはアメリカ陸軍航空隊のフライトジャケットを規格統一し、1936年にはアーネスト・ヘミングウェイが自身のデザインしたブッシュジャケットを制作するなど、当ブランドの製品は多岐にわたる分野で着用されていました。
当ショップでも取り扱いのある、当時富裕層向けのハンティングショップでもあった "Abercrombie & Fitch(アバクロンビー&フィッチ)" のOEM生産を請け負ったり、アメリカ軍のパイロットジャケットも手がける等、その生産技術は一級品。
1977年に "Abercrombie & Fitch" が破産した際、ウィリス&ガイガーは最大の未払い債権者であり廃業しましたが、元従業員バート・アヴェドンによって独立して復活。
その後の1994年にウィリス&ガイガーは、Lands' End(ランズエンド)に売却され、アヴェドンとランズエンドの経営陣との間の対立により、1999 年までにブランドは廃止されました。
ウィリス&ガイガーの物語は、その創設者たちが持つ情熱・冒険への情熱・そして最高品質の製品を作り続ける事へのコミットメントによって形作られました。
その伝説的な歴史と製品は、現在も多くの人々によって語り継がれています。
そんなウィリス&ガイガーより、通好みのモデルである "Quail Coat" のご紹介です。
『クウェイル』とは、英語でウズラを意味します。
すなわちこのコートは、ウズラ猟に特化して設計されたシューティングジャケット。
ただし、"特化" という言葉の重みが、このブランドの場合は桁違いです。
北極探検の為の衣類から始まり、ヘミングウェイのアフリカ遠征を支え、米軍のフライトジャケットを手がけてきたブランドが、『鳥を撃つ為の服』に全力で向き合ったら何が出来上がるのか。
その回答が、目の前にあるこの1着です。
ディテールの一つひとつに、フィールドでの実用性に裏打ちされた設計思想が宿っています。
襟元には、キャメルブラウンのコーデュロイ生地による切り替えが施されています。
これは単なるデザイン的アクセントではなく、銃を構えた際に頬が当たる部分を柔らかい素材で保護するという、シューティングジャケットならではの合理的な仕様。
しかしながら、このコーデュロイのウォームなブラウンが、タンカラーのボディに対して絶妙な色彩のアクセントとなっている事も事実で、機能とデザインが美しく一体化しています。
両肩部に配された "リコイルパッド"、すなわちキルティングパッドは、このジャケットがシューティングウェアである事を最も端的に物語るディテール。
ダイヤモンドパターンのキルティングが施されたこのパッドは、散弾銃の反動(リコイル)を吸収し、肩への負担を軽減する為に設けられた実用的な仕様です。
ファッションの文脈で見れば、この肩部のキルティングパネルが、フラットになりがちなタンカラーのボディに立体的な変化と陰影をもたらしており、ジャケット全体の表情を豊かにしている。
ジャケット中部の左右には、斜めに切られたハンドウォーマーポケットを配置。
パイピング処理されたウェルトポケットの口は、フィールドで手を素早く差し込めるよう、角度と位置が緻密に計算されています。
両裾部には、マチ付きのボタン留めフラップパッチポケットが左右対称に配置。
斜めにカットされた大振りのフラップに、同じべっ甲調のボタンが一つ。
マチが設けられている事で収容力は見た目以上に大きく、ハンティングシーンではシェルボックスや小物の収納に活躍する実用的な仕様ですが、タウンユースでも財布やスマートフォンなどをスマートに収められる、現代でも十二分に活きるディテールです。
そして、このクウェイルコートの最も驚くべき機能が、背面の "ゲームポケット" です。
腰位置から下の背面部分が、実は巨大なポケットになっているんです。
両サイドのジッパーで開閉し、底部のスナップボタンでマチを拡張する事が可能。
本来は猟で仕留めた獲物を収納する為のスペースですが、その収容力は驚異的。
更にこのゲームポケット部分は、内側から開けるとドロップシート・ゲームポケットとしても機能します。
コーデュラナイロンでライニングされた底面は、2つのボタンと左右のジッパーで開閉が可能で、展開すれば地面に座る際のシートとして使えるという、アウトドアプロダクトとしての完成度の高さ。
待ち伏せ猟で長時間フィールドに腰を下ろす際に、地面の湿気や汚れから身を守る。
こういった『見えない部分への執念』こそが、Willis&Geigerがただのアパレルブランドではなく "アウトフィッター" であった証です。
裏地には、左胸の内側にシューティンググラス・ポケット、腰の内側にはライセンス(狩猟許可書)ポケットが縫い付けられています。
サングラスや許可証という、フィールドで即座にアクセスしたいアイテムを、身体に最も近い位置に安全に収納する為のディテール。
いずれも簡素な作りですが、その "簡素さ" 自体が実用性の証明。
余計な装飾を排し、必要なものだけを必要な場所に配する。
ウィリス&ガイガーのデザイン哲学そのものです。
襟元のエンジタグは、"LANDS END(ランズエンド)" に売却される以前の個体に見られるディテール。
後年の個体になると、ブルータグ・イーグルタグが施されたタグとなっていきますので、エンジタグを味わえるのは80年代頃までとなります。
また、お探しの方も多い "米国製" というのも、拘る方からすると嬉しいポイントではないでしょうか。
特別に仕様が異なる事はありませんが、この年代のウィリス&ガイガーは香港製・中国製が多い印象ですので、米国製というのは大変希少かと思います。
当個体には、ウィリス&ガイガーが誇る高密度コットン生地 "BUSH POPLIN(ブッシュポプリン)" を惜しみなく採用。
1インチあたりおよそ340本もの双糸を用いて織り上げられたその生地は、しなやかさと耐久性を高次元で両立しています。
手に取った瞬間に感じられる密度の高さは、過酷な環境下でも耐えうるタフさを物語りながら、同時に肌触りの滑らかさと軽やかな着心地をも備えています。
元来、森林やサバンナといったフィールドでの長時間活動を想定して開発された為、速乾性・撥水性・通気性に優れ、アウトドアブランドの基準生地としても数々の名門に採用されてきた実績を誇ります。
カラーは、ブランドを象徴する "TAN" カラー。
サバンナの土色に近い、やや温かみを帯びたベージュは、自然環境でのカモフラージュ効果を持ちながら、都会的な装いにもすっと溶け込む汎用性を備えています。
光の加減によっては淡く黄味を帯び、柔らかい陰影を生み出すその発色は、決して派手さはないものの、着用者の雰囲気を引き立てる品格を漂わせます。
無骨さと上品さを両立させた生地感と、控えめながら存在感のあるカラーリング。
その組み合わせは、フィールドでも街でも、変わらぬ信頼性と洗練を提供してくれるでしょう。
サイズ表記は "44"
日本サイズですと "XL" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても大きなサイズ感となりますので、大きな体型の方でも問題なくご着用頂けるかと思います。
汚れ等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージ見受けられませんので、まだまだご着用頂けるかと思います。
今はそのオリジナルの姿はない "Willis&Geiger"
日本国内でもセレクトショップとの別注品こそ見るものの、ヴィンテージ好きとしてはやはり当時のオリジナルを手にしたい所ではないでしょうか。
探検家の為に。パイロットの為に。ヘミングウェイの為に。
そして、野鳥を追うハンターの為に。
Willis&Geigerが "本気" で作ったシューティングジャケットが、この一着です。
一つひとつのディテールが、フィールドでの合理性に裏打ちされており、その全てが現代のファッションシーンにおいても、圧倒的な存在感と物語を放っています。
Willis&Geigerの伝説に触れたい方、『道具としての服』の本質を知りたい方に、心からお勧めしたいモデルです。
是非この機会をお見逃しなく。