推定90年代頃、Yves Saint Laurent(イヴ・サンローラン)製『シアリングジャケット』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
Yves Saint Laurent(イヴ・サンローラン)とは、1961年12月、デザイナー "Yves Saint Laurent(イヴ・サン=ローラン)" とビジネスパートナー "Pierre Bergé(ピエール・ベルジェ)" によって、パリに創設されたメゾンブランド。
米国の実業家 "J・マック・ロビンソン" の出資を受け、翌1962年1月29日に初コレクションを発表。
あのシャネルが彼を『私の精神的後継者』と呼んだほど、パリ・モードの頂点に立った存在です。
その背景には、21歳でメゾン・ディオールのアーティスティック・ディレクターに抜擢されたという異例の経歴があります。
1957年、クリスチャン・ディオールの急逝を受けた大抜擢 ── 若き天才は、そこで培った技術と反骨を携え、自らのメゾンを興しました。
サン=ローランの真価は、女性の装いに"革命"をもたらした点にあります。
1965年のモンドリアン・ルックで服をアートに変換し、1966年には女性の為のタキシード "ル・スモーキング" でエレガンスと反骨を一着に共存させました。
同年、パリ左岸にプレタポルテ・ブティック "Rive Gauche" をオープンし、『デザイナーによる既製服』という概念を決定的に確立。
1967年のサファリジャケットも、機能服を都会の洗練へ変換した象徴的発明です。
1983年にはメトロポリタン美術館で存命デザイナー初の回顧展が開催され、ファッションの枠を超えた文化的評価を受けました。
象徴的なYSLロゴは、1963年にグラフィックの巨匠A・M・カッサンドルがデザインしたもの。
要するにイヴ・サンローランとは、『装い』を "解放" にも "表現" にも変えられる事を証明したブランド。
アートの香りをまといながら、日常へ降りてくる現実性を捨てない。
そのバランス感覚こそが、半世紀以上を経ても色褪せない理由でしょう。
そんなパリ・モード界の帝王が送り出した、高級毛皮専門ライン "Fourrures(フルール)" を冠した、渾身のシアリングジャケットのご紹介です。
"Fourrures" とは、フランス語で "毛皮" を意味する言葉。
YSLにおける "Fourrures" ラインは、1970年代初頭に確立されたメゾンの毛皮専門部門であり、通常のプレタポルテや "Rive Gauche" とは完全に独立した、最高級素材のみを扱う特別なカテゴリーとして位置付けられていました。
特に1976年の秋冬コレクション ── あの伝説的な "Opéras - Ballets Russes(ロシアン・コレクション)" において、Fourruresラインは世界的な脚光を浴びます。
コサック・スタイルのコートやペザント・アンサンブルをブロードテール・ミンク・セーブルといった最高級ファーで仕立て上げたその衝撃は、ファッション史に深く刻まれました。
サン=ローラン自身が『最も美しいコレクション』と称したその作品群の多くは、現在メトロポリタン美術館やFIT美術館に収蔵されています。
つまり "Fourrures" のタグが付いているという事は、それだけでメゾンが持つ最高峰の素材と技術が投入された証拠であり、通常のYSL製品とは一線を画す特別な存在なのです。
さて、当個体を前にして、まず目を奪われるのはその圧倒的な "情報量" でしょう。
そもそもシアリングジャケットとは、その出自を辿ればミリタリーウェアに行き着きます。第二次世界大戦中、英国空軍のパイロットが着用した "アーヴィンジャケット" や、米軍の "B-3" に代表されるフライトジャケット群。
極寒の高高度で生命を守る為に生み出された、羊の毛皮を裏地に使った防寒着。
それがシアリングジャケットの原点です。
本来であれば、無骨で泥臭い、実用一辺倒の軍用品。
しかし、サン=ローランの手にかかると、話は全く変わってきます。
1967年のサファリジャケットでアフリカの機能服をパリの洗練に変換し、"ル・スモーキング" で男性の専有物だったタキシードを女性の解放の象徴に変えた ── あの "異文化の翻訳者" が、ミリタリーシアリングに目を付けない筈がありません。
そしてその翻訳の仕方が、実にサン=ローラン的。
ミリタリー特有の土臭さは完全に払拭され、素材使いとデザインの力で見事にラグジュアリーの領域へと昇華されています。
最も目を惹くのは、フロントの前合わせに採用された独特のクロージャーシステム。
ダークブラウンのスムースレザーによるセンターフラップの左右に、矢印型のレザータブが対になって配置され、そのタブ同士をメタルのスナップフックで連結させて留めるという、極めて装飾性の高い二重構造式を採用しています。
二つの異なる文脈が一着の上で交差する。
正にサン=ローランが得意とした "クロスデザイン" の真骨頂と言えるでしょう。
フロントには、計4組のスナップフックが縦に並び、加えて最上部にはアジャスターベルトとスナップボタンによる固定も可能。
閉じた時の重厚な佇まいは、鎧の様でもあり、ジュエリーの様でもある。
襟は、スムースレザーで仕立てられたハイネック仕様のスタンドカラー。
襟の内側全面にはシアリングのファーが贅沢に配されており、ここの "二面性" がまた素晴らしい。
襟を寝かせて着用すれば、内側のダークブラウンのファーがキャメルブラウンのスエードボディとのコントラストを生み、リッチなアクセントとして首元を彩ります。
一方、首元のレザーストラップで襟を高く立てれば、ファーは内側に隠れ、レザーの硬質な表情だけが顔周りを包み込む。
防寒性は勿論の事、ガラッとモードな雰囲気に様変わりするんです。
同じジャケットなのに、襟の上げ下げだけでここまで印象が変わる。
この設計、只者ではありません。
裾の左右には、八の字型に配置されたジップポケットを装備。
ジップの開口部にもダークブラウンのスムースレザーが当てられ、その両端はボディのパイピングと同様の矢印型のレザーアクセントで処理されています。
ジップスライダーには信頼の "YKK" 社製を採用。
このポケットの角度が絶妙で、手を自然に差し込む動作線に沿って設計されている為、見た目の美しさと実用性が高次元で両立しています。
内側を開けば、そこにはダークチョコレートブラウンの圧巻のシアリングファーが一面に広がっています。
密度が高く、毛足もしっかりとした極めて上質なファー。
ボディ全面は勿論、襟の内側に至るまで、隙間なくファーが詰まっている。
この包み込まれる様な着心地は、一度袖を通したら忘れられないものになるでしょう。
内側のファーの海に浮かぶ "Yves Saint Laurent Fourrures / MADE IN FRANCE" のタグ。
このオレンジの刺繍文字が、ダークブラウンのファーの中で静かに、しかし確かに存在を主張しています。
素材は "スエードレザー" をメインに、トリム部分に "スムースレザー" を採用したコンビネーション仕様。
キャメルブラウンのスエードが持つ温かみのある起毛の質感と、ダークブラウンのスムースレザーが持つ艶やかで引き締まった質感。
この二つの素材のコントラストが、当個体の視覚的な豊かさの源泉となっています。
カラーは "キャメルブラウン" をメインに、トリム部の "ダークブラウン" とのツートーン構成。
キャメルブラウンのスエードは、経年変化によって場所ごとに微妙に濃淡が生まれ、まるで大地の地層の様な奥行きのある表情を見せてくれます。
そこにダークブラウンのスムースレザーが走る事で、全体が甘くなり過ぎず、適度な緊張感を保っている。
この色と素材の組み合わせは、秋冬のどんなカラーパレットにも馴染む懐の深さを持っています。
サイズ表記は確認出来ませんが、日本サイズで "L" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても大きなサイズ感となりますので、大きな体型の方でも問題なくご着用頂けるかと思います。
汚れ・擦れ・傷・生地特有の剥がれ等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージ見受けられませんので、まだまだご着用頂けるかと思います。
パリ・モード界の頂点に君臨したメゾンが、最高級素材の為だけに設けた特別なライン "Fourrures"
その名を冠し、フランス本国で製造されたシアリングジャケット。
ミリタリーの機能美をラグジュアリーに昇華し、シアリングの温もりをモードの冷徹さで引き締めた。
こんな離れ業が出来るのは、サン=ローランをおいて他にいません。
当ショップでも初入荷となる、Fourruresラインのレザープロダクト。
次にいつ巡り合えるか分からない、極上の一着です。
お探しの方がいらっしゃいましたら、この機会をどうかお見逃しなく。