推定90年代頃、Barbour(バブアー)製『エンデュランス』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
Barbour(バブアー)とは、1894年に創業者 "John Barbour(ジョン・バブアー)" がイングランド北東部サウスシールズのマーケット・プレイスで創業した、英国発のアウトドア / カントリーウェアの老舗ブランド。
海風と雨に晒される水夫や漁師の為に供給したオイルスキン(防水衣)を原点に、"天候に抗うための衣服" を磨き上げてきました。
1908年、二代目 "Malcolm Barbour(マルコム・バブアー)" が初の通信販売カタログを制作。
1917年には売上の約75%を通信販売が占めるまでに成長し、南米チリや香港まで国際的に出荷されました。
英国の気候と生活に根差した機能服は、早くから "遠くの街のユーザー" にも届いていたのです。
1936年、三代目 "Duncan Barbour(ダンカン・バブアー)" は、国際6日間トライアル(ISDT)の為に開発した一体型ワックススーツ "Barbour International(A1 スーツ)" を発表。
これが戦時下には二分割化され、英潜水艦部隊の標準装備 "Ursula Suit(ウルスラ・スーツ)" へ発展します。
戦後は市民のモーターサイクルウェアとして普及し、1950年代〜70年代にはISDTのライダーの大半が "Barbour International" を着用。
1964年の東独大会では米国代表チームとスティーブ・マックイーンもバブアーを入手して参戦するなど、機能=実績がブランドの名声を確立しました。
このブランドの最大の魅力は、仕立て屋の精密さと工業的スケールの融合という矛盾を、見事に両立している点にあります。
一言でいえば『仕立ての哲学を持った工業製品』。
ワックスド・コットンがもたらす防水・防風・耐久に、スロートラッチやマップポケット・ウエストベルト・着脱式ライナーといった合理的なディテールを重ね、プロフェッショナルの要求に応えながら都市生活にも違和感なく溶け込むエレガンスへと昇華してきました。
また、品質への揺るぎない信頼は、王室御用達(ロイヤル・ワラント)という形でも証明されています。
バブアーは1974年にエディンバラ公、1982年にエリザベス女王、1987年にプリンス・オブ・ウェールズ(のちの国王チャールズ三世)から拝受。
体制移行に伴う審査を経て、2024年には国王チャールズ三世より新たなロイヤル・ワラントが与えられました。
王室が認める "実用品" である事。それはブランドの原点と現在をまっすぐに繋ぐ証です。
現在も本社と自社工場はサウスシールズ(Simonside)に置かれ、Bedale / Beaufort 等のワックスド・コットン・ジャケットを職人の手作業で製造。
修理・リワックス・リラブ(再整備再販)まで一気通貫で担い、衣服の "寿命" を延ばす循環型のものづくりを続けています。
今回ご紹介する物は、バブアー史の中でも特異点として語られる、Ventile(ベンタイル)を本格採用した "ENDURANCE(エンデュランス)" モデル。
"Ventile(ベンタイル)" とは、イギリス・マンチェスターのシャーリー研究所(Shirley Institute)で第二次大戦期に開発された、超高密度織りのコットン100%ファブリック。
本来はパイロット用の"コックピットでは快適、海に落ちたら保温・防水" という相反要件を同時に満たす為に生まれ、1943年に量産化。
RAF(英空軍)の耐浸水スーツに採用され、海上での生存可能時間を劇的に延ばし、救助の現実味を高めたと公式に記録されています。
実際に同社は『海中での生存期待値を10倍、救命率を80%へ』と記しています。
素材の核は "超長綿(Extra-Long Staple Cotton)" 。
世界の綿花のうち僅か "約2%" に満たない高品位な超長繊維綿だけを厳選し、低撚りの糸に紡ぎ、異常なまでに密度を高めて平織します。
乾いた状態ではしなやかで通気性があり、濡れると繊維が膨潤して経緯の隙間を閉じ、水の侵入を物理的に遮断する。
この "生地そのものが反応して止水する" 仕組みこそ、ベンタイル最大の特性です。
ベンタイルは撥水(DWR)加工を補助的に使いながらも、基本性能は "織り" と "綿の膨潤" で実現します。
単層の標準番手で耐水圧おおむね750mm前後(英国国防省は800mmを "防水" の目安に言及)、重量の重い番手では900mmの数値に至るものもあり、二層仕立て(ツインレイヤー)では縫い目のオフセットと層の相乗で耐候性が更に向上します。
しかも静かで "無音" に近い着心地と、化繊膜に比べて高い透湿性を両立。
天然繊維だけで荒天に挑む、その発想自体がベンタイルの特異点です。
更にコットンならではの経年変化があり、ケア次第で長期の使用に耐える事も大きな魅力。
エベレスト初登頂(1953)や極地踏破の装備にも採られた背景は、今も "信頼の生地" として語り継がれています。
そんな贅沢な生地を存分に採用したエンデュランスは、1990年代に限定的に展開されたフィールドジャケット群の一種で、クラシックなバブアーの意匠を保ちながら、ワックスではなく静かで上品なドライタッチを志向した存在。
ショップ・アーカイブや愛好家の記録では、『90年代前半〜後半にかけて短期間だけ販売 / 現在は未復刻』とされ、ヴィンテージ市場で希少性が高いモデルとして知られます。
ハンドウォーマーと下部のベローズポケット、コーデュロイカラー、ウエストのドローコード等、バブアー語法を踏襲した設計に、Ventile 特有の "しっとりと無音の着心地" が加わる。
この "機能と所作" の両立こそ、エンデュランス最大の魅力です。
また、ライン内には派生・型番違いも確認されており、例えば "A1000 Arctic Endurance" はパデッド仕様を備えたヘヴィデューティ・バリエーションで、英国製の個体が流通記録に残っています。
当個体に関しては、"A1005 Endurance" となっており、A1000とは異なるアンパデッド仕様ですので、より幅広い季節でご着用頂けます。
各種ディテールに関しては、前述の通りバブアーらしさを感じられます。
襟部は、バブアーのアイコンであるブラウンの太畝コーデュロイを採用。
肌当たりは柔らかく、立てればチンストラップで喉元をしっかり固定出来る防風設計。
両中部には、斜めに振られたフラップポケットを配置。
剥き出しボタンがミリタリーライクな表情を与えつつ、手を差し込みやすい角度で設計されています。
両裾部には、容量たっぷりのベローズポケットを配置。
フラップ端は細めのトップステッチで輪郭を強調し、道具を入れても外観が膨らみにくい構造です。
ウエスト部内側にはドローコードが付属しており、メタルアイレットとディスク型トグルでワンタッチ調整が可能に。
着込むインナーやシーンに応じて、シルエットと体感温度を即座にチューニング出来ます。
前合わせは、ボタン留めとジップファスナーによる開閉式の二重構造を採用。
ボタンは大ぶりの4穴で指掛かりが良く、ジップはリングプル仕様(Barbour刻印)でグローブ着用時でも操作がスムーズ。
深いバーガンディ色のジップテープが、セージグリーンの生地に控えめなコントラストを添えます。
カラーは、バブアーらしさを物語るセージグリーンカラー。
オリーブに灰味を含んだ深い緑は、自然光では柔らかく、室内灯の下ではぐっと落ち着いた表情へと変化。
高密度コットン特有のマットな面が光を拡散し、縫い代やエッジに走る薄いハイライトが陰影を際立たせます。
使い込む程に生まれる色の濃淡や擦れが立体感を加え、ブラウンのコーデュロイ襟や真鍮調の金具と相まって、英国的な渋さを纏った一着へ。
主張しすぎず埋もれもしない、静かな存在感を放つセージは、都会でもフィールドでも装いを凛と引き締める "品のあるミリタリーグリーン" です。
サイズ表記は "C44 / 112 CM"
日本サイズで "L ~ XL" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても大きめのサイズ感となりますので、大きな体型の方でも問題なくご着用頂けるかと思います。
生地特有のアタリ・褪色・小穴・ボタン欠損等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
第二次大戦期に生まれた高機能ファブリック "Ventile" を纏った特異点 "Endurance(A1005)" は、ブランド史を体現する一着。
アンパデッド仕様ゆえに長い季節で活躍し、街とフィールドを横断する実用美を凝縮。
日常の装いにさり気なく確かな格を加えたい方へ、自信を持ってお勧め出来る逸品です。
90年代に限定展開された "Endurance" は、ヴィンテージ市場でも流通がごく僅か。
当ショップでも入荷の少ない希少なアイテムとなりますので、探されていた方はこの機会をお見逃しなく。