推定2000年代頃、ARNYS PARIS(アルニス パリス)製『フォレスティエールジャケット』になります。
スーパースペシャルアイテムの入荷です。
ARNYS PARIS(アルニス パリス)とは、1933年にパリ左岸・セーヴル通り14番地に店を構えた、フランス紳士服史における "伝説級" のメゾンブランド。
起点となるのは、ユダヤ系テーラーとして知られる "Jankel Grimbert(ジャンケル・グランベール)" と、その家業を継いだ一族の歩み。
アルニスが特別なのは、単に "良い服を作る店" ではなく、左岸の空気そのものを服に落とし込んだ点にあります。
右岸の重厚で保守的な『メゾンの正装』に対し、左岸は『学芸・文化・芸術』の土壌。
アルニスが築いたのは、テーラリングの品格を守りながらも、どこか肩の力が抜けた色使い、英国趣味のツイードやスポーツウェアの感覚、そしてフランスらしい粋を同居させた独自のスタイルでした。
店の立地が示す通り、"洒落者の為のアトリエ兼サロン" として愛され、知識人や文化人の装いの記憶とも結びついていきます。
その象徴として語られるのが、アルニスの代名詞 『La Forestière(フォレスティエール)』
建築家 ル・コルビュジエ が『腕を上げても突っ張らず、都市で働ける上着』を求めた事を起点に、1947年に生まれた。
という逸話はあまりにも有名です。
襟をそぎ落とした様な首元・動きに寄り添うパターンワーク・ワークジャケットの合理性とパリの洒脱が溶け合うその佇まいは、正にアルニスの哲学を一着で説明してしまう完成度と言えます。
そして2012年、アルニスはLVMH傘下に入り、セーヴル通りのブティックはベルルッティの旗艦拠点へと転換されていきます。
ここで重要なのは、単なる "消滅" ではなく、アルニスの仕立ての技術と工房が、ベルルッティのメンズウェア領域を押し上げる核として扱われた事。
"左岸の美意識が最も濃かった時代の空気"
"メゾン級の仕立てを日常のジャケットへ落とし込む発想"
この二つを同時に手に入れられるブランドは、実のところ多くありません。
クラシックなのに、どこか反骨的。
端正なのに、色気がある。
着る人の肩書きではなく、着る人の生き方を格上げしてくれる服。
アルニスとは、そういう存在です。
当店でご紹介するアルニスの一着もまた、単なる "古い良い服" では終わりません。
袖を通した瞬間に立ち上がるのは、セーヌ左岸で育った知性と洒脱、そしてフランス仕立ての余裕。
人と被らないのに、奇をてらっていない。
この矛盾を成立させるのがアルニスの真骨頂です。
さて、今回ご紹介するのは、そのアルニスにおいて最も価格高騰が著しく、かつ最もお探しの方が多いモデル。
メゾンの代名詞にして不朽の銘品、"Forestière Jacket(フォレスティエール ジャケット)" です。
ブランドのカジュアルスタンダードに当たる "Forestière(森の番人)" は、1947年に近代建築理論家の巨匠 "Le Corbusier(シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)" の為に、特別にカスタムオーダーされた所から始まります。
ル・コルビュジエは、黒板やスケッチボードに文字を書いたり、下書きをする際、腕を上げ下げした時に干渉しない、快適でスタイリッシュなジャケットを探していたそう。
そんな時に、1939年のジャン・ルノワール監督によるフランス映画『La Règle du Jeu(ゲームの規則)』に登場する猟場監督ガストン・モドが着用していた、ソローニュ地方のハンティングジャケットにインスピレーションを受け、アルニスの2代目当主 "Léon Grimbert(レオン・グランベール)" に特注したのが全ての始まりです。
ですのでフォレスティエールは、動きやすさを最優先に設計されています。
袖は『Manche Pivot(ピヴォットスリーブ)』と呼ばれる、レオンの父ジャンケルが1920年に考案した独自の袖パターンを採用。
着物の袖にヒントを得たこの構造は、通常の仕立てとは真逆の発想で、非常に広いアームホールと一定幅の袖を組み合わせる事で、腕を上げてもジャケットが突っ張らない驚異的な可動域を実現しています。
肩は裏地も芯地も持たないアンコン仕立てで、通常のテーラードジャケットとは一線を画す脱構築的なアプローチ。
ル・コルビュジエ本人が当時特注したフォレスティエールは、表地がブラックコーデュロイ・裏地がブラックシルクと、建築家の黒い服に対する嗜好を忠実に反映した仕上がりだったといいます。
なお、ル・コルビュジエは自身のアーカイブを積極的に管理しており、彼が着用していたフォレスティエールの写真が殆ど残っていないのは、彼の理想化された知的なイメージを守る為の意図的なものであったと考えられています。
正に建築家らしい、徹底した自己プロデュース。
1950年代には自社のプレタポルテ(高級既製服)ラインにフォレスティエールが導入され、瞬く間にブランドの代名詞となりました。
当時アルニスのクリエーションに携わったドミニク・ルリスによれば、初期のフォレスティエールはパッドの入った比較的ストレートなシルエットだったものの、後にパッドを抜き肩を落とす改良を施した所、爆発的なヒットとなり、アルニスの売上の実に50%を占める程の看板商品に成長したといいます。
更に1990年代には、レオンの息子である3代目 "Jean Grimbert(ジャン・グランベール)" の影響下で、より洗練されたマオカラー(スタンドカラー)スタイルへと進化。
これが今日我々が知る、あのフォレスティエールの完成形です。
当個体は、そのフォレスティエールの完成期とも言える2000年代頃のプロダクト。
裏地の内側に縫い付けられたラベルには、誇らしげに『Veste "FORESTIERE" / Modèle créé par ARNYS en 1947 / CONFORME A L'ORIGINAL』の文字。
『1947年にアルニスが創造したモデル。オリジナルに準拠。』という宣言は、この一着が正統なフォレスティエールである事の何よりの証です。
モデルを特徴づけるディテールを改めて見ていきましょう。
まず目を惹くのが、フォレスティエールの最も分かりやすいアイコンであるスタンドカラー。
一般的なテーラードの襟を潔くそぎ落とした、凛とした首元が独特の雰囲気を醸し出します。
上詰めに配されたフロント5つボタンは、"ARNYS PARIS" の刻印が入った4つ穴ボタンを採用。
アルニスのアイテムにはマーブル調に縁取られた装飾的なボタンを有した個体も存在しますが、当個体はよりシンプルな刻印ボタン仕様。
これはこれで、ワークジャケットとしての出自を感じさせる実直さがあって、むしろ好印象です。
ポケットは、左胸のみに配されたパッチポケットと、両腰部の大型パッチポケットの計3つ。
腰ポケットは角を丸く落としたラウンド型で、ワークジャケットの実用性とメゾンの洒脱が絶妙に同居しています。
肘部分にはエルボーパッチが施されています。
当個体は共布による補強布を採用しており、ワークウェア由来の堅実なディテールが、知的な佇まいにほんの少しだけ『手仕事の痕跡』を加えてくれます。
内側の仕立てにも、アルニスらしい気の利いた遊び心が。
当個体は裏地の付かないアンライニング仕様ですが、内側の縫い代処理に用いられたギンガムチェックのバイアステープが目を惹きます。
"ホワイト × ネイビー" の細かなチェック柄が、表の端正なヘリンボーンとの対比で実に小粋。
ハンギングループにも同じギンガムチェックの生地が使われており、ジャケットを脱いで掛けた時に覗くこの小さなアクセントが、密かにオーナーの心をくすぐる仕掛けになっています。
こういう『外からは見えない場所にこそ、遊びを忍ばせる』感覚。
これぞ正に、セーヌ左岸の美意識そのものでしょう。
生地には、"シルク 55% × ウール 45%" のHBT(ヘリンボーンツイル)織を採用しています。
シルクの混紡割合がウールを上回るという贅沢な構成が、この生地に独特の品格を与えています。
ウールの保温性と適度なコシに、シルク特有のしなやかな光沢とドレープ性が加わる事で、ワークジャケット然としたフォルムの中に、どこかドレッシーな艶が同居する。
光を受けた時に浮かび上がるヘリンボーンの綾目が、角度によって繊細に表情を変え、見る者を飽きさせません。
フォレスティエールと言えばコーデュロイやコットン素材の個体が最も知られていますが、"シルク × ウール" という素材選択は格段にドレッシーな印象を纏い、フォレスティエールの可能性を更に広げてくれる存在と言えるのではないでしょうか。
カラーは、汎用性の高い "シルバーグレー" のヘリンボーン柄。
アルニスのアイテムと言えば、ブランド独自の大胆な配色が特徴ではありますが、当個体は比較的どの様なスタイリングにも馴染みやすいニュートラルなカラーリング。
『アルニスのフォレスティエールが欲しいけれど、まずは使いやすい色から手に入れたい』と考えている方にとって、これ以上の選択肢は中々ないかと思います。
勿論、アルニスらしい独特なカラーリングも大変魅力的ではありますが、最初の1着としてはこのベーシックカラーが正解でしょう。
サイズ表記は "48"
日本サイズで "M ~ L" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても日本人体型に合うゴールデンサイズかと思いますので、幅広い体型の方にご着用頂けるかと思います。
フォレスティエールはその設計思想から、ゆったりとしたフィッティングが特徴です。
タグ表記のサイズよりも大きめに感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは正にフォレスティエール本来の『ルーズでイージーなシルエット』を楽しんで頂く為のもの。
ピヴォットスリーブによる広いアームホールと相まって、窮屈さとは無縁の着心地を約束してくれます。
汚れ・毛羽立ち・擦れ・ほつれ・小穴等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
年代やモデルを問わず、既に市場に出回る事自体が極めて稀となっている今は亡きブランド "ARNYS PARIS"。
中でも "FORESTIERE JACKET" は、ブランドの代名詞として最も需要が高く、かつ最も入手困難なモデルです。
当個体は、希少な本国フランス製。
フランス製に拘る方からすると、これほど嬉しいポイントはないでしょう。
しかも "シルク × ウール" のヘリンボーンという、フォレスティエールとしては珍しい素材違いの個体。
コーデュロイやコットンの定番素材とはまた違った、ドレッシーな表情を楽しめる一着です。
近年、雑誌等でも再び特集が組まれるなど、ブランドは既になくともその価値は鰻登りの一途を辿っています。
ワードローブの第一線としては勿論、コレクションアイテムやデザインソースとしても。
お探しの方がいましたら、この機会をどうぞお見逃しなく。