推定40年代頃、フランス製『グレーコットンピケ ハンティングジャケット』になります。
フレンチワークの定番アイテムである "Hunting Jacket"
その名に "Hunting(狩猟)" の名を冠しながらも、実際には19世紀末から20世紀中頃のフランスにおいて、主に上流階級の間で狩猟時に着用されていた、機能性と格式を兼ね備えた一着となります。
当時のフランスでは、狩猟は単なる生計手段ではなく、貴族や地主、裕福な工場主等の "特権階級" にとって、社交やレクリエーションの一環として広く嗜まれていました。
その為、このジャケットは農夫や一般労働者向けの仕事着としてではなく、選ばれた階層に属する人々の為に誂えられた背景を持っています。
フランス各地、特にリヨン・リモージュ・トゥールーズ等の都市圏には当時、腕の良い仕立て屋や工房が点在しており、1900年代初頭頃までの個体には、顧客の体型や用途に応じたオーダーメイド仕様のものが数多く存在していました。
当時は既製品という概念がまだ一般的でなかった為、ブランドによる量産は極めて限られており、タグが付属しない個体も多く、職人の手仕事が随所に宿る贅沢なウェアです。
使用されていたファブリックも多岐に亘り、ヘビーウェイトのコットンキャンバス・コットンピケ・コーデュロイ・リネン・ウール・モールスキンといった素材が、狩猟という過酷な環境に対応する為に選ばれていました。
それらは防風性・耐久性・機動性を兼ね備えており、森林や原野での使用に耐える実用性を追求しつつも、着用者の階級を映す洗練された佇まいも備えています。
数あるフレンチワークウェアの中でも、その用途と立ち位置が明確に異なる "Hunting Jacket" は、実用と格式を併せ持つ異色の存在として、今なお高い評価を受けている逸品です。
当個体に関しては、フレンチハンティングジャケットの定番生地とも言える "コットンピケ" を採用。
当ショップではこれまでにも数多くのフレンチハンティングジャケットをご紹介してきましたが、定番アイテムだからこそ、買い付けには一切の妥協を許さないようにしています。
数あるフレンチハンティングの中で、この個体をピックアップした理由。
それは、表地のコットンピケという王道の選択肢に対して、裏地に "Salt & Pepper(ソルト&ペッパー)" 生地を採用しているという、極めて珍しい組み合わせにあります。
ソルト&ペッパー。
直訳すれば『塩と胡椒』。
その名の通り、黒と白の繊維が混ざり合う事で独特のグレーの濃淡を生み出す、所謂『ごま塩』と称されるファブリック。
フレンチワークウェアの世界では、パンツやコートの生地として知られていますが、ハンティングジャケットの "裏地" にこれを採用した個体は、あまり見た事がありません。
外側の枯れたグレーのコットンピケと、内側のソルト&ペッパー。
この表裏の素材コントラストが、この個体を "定番の中の特別" たらしめている最大の要因です。
何よりもまず、前立てに整然と並ぶメタル製の "動物ボタン" が圧巻です。
ハンティングジャケットを語る上で、このボタンの存在は決して無視できない。
いや、寧ろこのボタンこそが、ハンティングジャケットのアイデンティティそのものと言っても過言ではありません。
古いメタルが帯びた鈍い光沢は、経年によって磨き上げられたアンティークコインの様な趣があり、褪色が進んだコットンピケのボディに対して、凛とした引き締め役を果たしています。
このボタンが、フロントの前合わせだけでなく、胸ポケット・腰ポケット、そして袖口に至るまで、ジャケット全体に統一して採用されている。
この徹底した世界観の構築こそが、量産品とは一線を画する、当時の仕立ての矜持というもの。
小さなパーツ一つで、服の格が決まる。
正に、その好例がここにあります。
ポケットの構成は、ハンティングジャケットの教科書と言えるオーソドックスな配置。
胸部には小振りなフラップ付きパッチポケットが左右に2つ。
散弾のシェルや小物を素早く取り出せるよう、実用的なサイズに設計されています。
腰部にはやや大振りのフラップ付きパッチポケットを左右に2つ。
そしてフレンチハンティングジャケットの真骨頂である、背面のゲームポケットも勿論完備。
両サイドのボタンで開閉する大容量のこのポケットは、本来は猟の獲物を収納する為のスペース。
袖口は、筒袖ではなく、古い年代のハンティングジャケットに見られるボタンタブ付き仕様。
手首周りのフィット感を調整可能なこのディテールは、銃を構える際の袖のもたつきを防ぎ、かつ藪の中で枝に引っ掛かることを防止するという、実用と合理性から生まれた意匠。
ここにもまた、同じ動物ボタンが配されており、デザインの一貫性が全体を貫いています。
カラーは、経年により深い褪色が進行したグレーフェードカラー。
元々のカラーはもう少し深いグレーであったと推測されますが、数十年の歳月を経て、全体が淡く枯れた様な色合いへと変化しています。
ポケット周辺や前立て付近にはより濃い色が残り、肩や袖にかけては光に晒された結果としての褪色が進んでいる。
この不均一な褪色のグラデーションが、実に味わい深い。
人の手では決して再現出来ない、時間だけが生み出せるこの色斑こそが、ヴィンテージの持つ最も根源的な美しさであり、この個体が纏う最大の魅力です。
メタルの動物ボタンの鈍い銀色が、この褪色したグレーの中でキラリと光る。
その対比が、どうしようもなく格好良い。
サイズ表記は確認出来ませんが、日本サイズで "M ~ L" 程度に該当するかと思います。
実寸値を見ても日本人体型に合うゴールデンサイズかと思いますので、幅広い体型の方にご着用頂けるかと思います。
褪色・変色・汚れ・擦れ・ほつれ・リペア跡・一部ボタンの付け替え等の使用感が見受けられます。
率直に申し上げて、コンディションとしては "良好" とは言い難い部分もあります。
しかしながら、1940年代という時代を考えれば、80年以上の歳月を生き延びてここに在ること自体が奇跡的。
そして何より、この褪色、この汚れ、この擦れこそが、この個体が纏う圧倒的なオーラの源泉である事は、写真をご覧頂ければお分かり頂けるのではないでしょうか。
寧ろこのコンディションだからこそ欲しい、という方にこそ手に取って頂きたい1着です。
コットンピケの王道表地に、ソルト&ペッパーの異端な裏地。
動物ボタンの鈍い光に、約80年分の時間が刻んだ褪色のグラデーション。
フレンチハンティングジャケットの "定番" を知り尽くした方にこそ、この個体の "定番の中の異端" としての価値を感じて頂けるはずです。
当ショップでも滅多に入荷しない1着になりますので、お探しの方はこの機会をお見逃しなく。