推定1950年代頃、フランス製『ブラックシャンブレー ワークパンツ』になります。
しかもこちら、デッドストック。
70年前に仕立てられ、恐らく一度も穿かれないまま今日まで残っていた一本です。
穿かれるべきだった時間が、そのまま生地の硬さとして手のひらに返ってくる。
デッドストックというのは、そういう不思議な手応えのあるものですね。
さて、ディテールを見ていきましょう。
まず目に留まりますのが、ウエストの1タック。
この年代のワークパンツは、労働着として無駄を削ぎ落とすのが常道です。タックなどという贅沢な処理は入らないのが普通なんですね。
それがきちんと畳まれている。おかげで腰まわりに余裕が生まれ、ワークパンツでありながらスラックスに近い落ち感が出てくれています。
フロントはボタンフライ仕様。
四つ並ぶのは、黒いラッカー塗装が施されたメタルボタンです。
この塗装ボタンが付くのは概ね50年代頃までという印象があり、年代推定の手がかりのひとつになっております。
右のウエストには小さなコインポケット。
そして背面には、両玉縁のバックポケットが配されております。玉縁というのは、ポケット口を細い布で縁取って補強する仕立ての事。
ウエストベルトの内側には、淡いブルーのヘリンボーンコットン。
外の暗いトーンに対して、開いた時だけ現れる涼やかな青が実に良い塩梅です。
ベルトループが備わり、更にフック&バーで留める構造。
シルエットは太すぎないストレート。
腿から裾へ、緩やかに、しかし確実に落ちていってくれます。
素材はコットン100%、ブラックシャンブレーを使用しています。
シャンブレーとは、経糸と緯糸に異なる色を用いる平織の事。
当個体は黒の経糸に白の緯糸が交差しておりますので、離れて見ると灰、寄って見るとごま塩のような霜降りに見えます。
単色とは光の返し方がまったく違い、生地の表面に細かな粒子が浮いているような独特の奥行きがございます。
そして手触り。デッドストックゆえか、まだ硬いんです。
ゴワッという表現がふさわしい、糊の残ったような張り。折り目は角を持ち、生地は自立してくれます。
ここからが本番かと思います。
穿き込むほどに繊維がほぐれ、膝や腰にご自身の形が決まっていく。新品の状態が完成形ではありません。むしろ、ここからがスタートですね。
この硬さを自分の手で崩していく時間こそが、この一本の一番の価値なのではないでしょうか。
カラーは "チャコールグレー"。
純黒ではなく、白い緯糸が混ざる事で一段グレーへ寄った濃度になります。
この曖昧さが実に使いやすいんです。
黒ほど強く主張せず、グレーほど軽くならない。どんな色の上衣を持ってきても喧嘩をせず、静かに足元を締めてくれるかと思います。
ウエスト内側のブルーだけが、この一本における唯一の色。
脱ぎ着の時にしか見えない場所に置かれた、慎ましいアクセントですね。
この一本の魅力は、間違いなく汎用性にあります。
白シャツにローファーで綺麗めに寄せるも良し、ニットとブーツで無骨に落とすも良し。スウェット一枚でも成立してくれます。
ワークパンツという出自を持ちながら、シルエットとコンディションが良いおかげで、上品な装いにもすんなり馴染んでくれるかと思います。
普段スラックス中心の方が、その延長線上で一本ヴィンテージを取り入れたい——そういう場面に、これほど適した個体は中々ございません。
主役を張るタイプではなく、名脇役。しかし脇役ほど、質の差が出るものです。
サイズ表記はございませんが、日本サイズで "M" 程度に該当するかと思います。
股上が深めに取られておりますので、実際に穿いて頂きますと数値以上に腰まわりの余裕を感じて頂けるかと思います。1タックの効果もあり、窮屈さはございません。
デッドストック品となりますが、約70年という長期保管を経ておりますので、保管に由来する薄い汚れや小さな傷が生じている場合がございます。
この点はあらかじめご了承ください。
ブラックシャンブレーのフレンチワークパンツというだけでも、市場で見かける機会は限られます。それがデッドストックとなりますと、条件はさらに絞られてまいります。
デッドストックのヴィンテージには、独特の緊張感がございます。
70年間、誰も穿かなかった。その事実の前に立ちますと、最初の一日をどう過ごすかを少し考えてしまうものです。
ですが、服は穿かれる為に作られたもの。
この硬い生地が、あなたの膝の形を覚えていく。その続きを引き受けてくださる方に、お渡しできたらと思います。