推定1960年代頃、フランス製 "Le Sans Pareil" 『ブラウンモールスキン ワークジャケット』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
これはテンションが上がりました。
フレンチワークを長く扱っていますが、ブラウンのモールスキンで仕立てられたカバーオールとなると、年代を問わず滅多に出てこないんです。
内側に残るのは、黒地に黄色でプリントされた小さなラベル。
オリーブの枝をくわえた鳩の図像と共に、筆記体で "Le Sans Pareil"、その下に "Déposé VILLEFRANCHE (Rhône)" と記されています。
Le Sans Pareil とは、フランス語で「比類なきもの」の意。
作業着の名前としては少々大袈裟にも思えますが、その自負を鳩と一緒に刷り込んでしまうあたりが、なんとも可愛らしいですよね。
ヴィルフランシュという街の名も、フレンチワークを追いかけている方にとっては聞き逃せない一語かと思います。
ローヌ県、リヨンの北に位置するこの街は、19世紀から20世紀にかけて作業着づくりの一大産地として知られ、フランス各地の工場や農場へ服を送り出していました。
当時のフランスでは、鍛冶職人も、農夫も、機関士も、皆この手の上っ張りを着て働いていました。
その多くはインクブルーか黒で、いわゆるフレンチブルーと呼ばれる色こそが作業着の顔だった訳です。
だからこそ、このブラウンが効いてくるんですね。
同じ形、同じ用途でありながら、色が一つ変わるだけで、労働の道具から街着へと佇まいが移り変わる。
市場でも本当に数が少ない色なので、探しておられた方にはぜひ見て頂きたい一着です。
作りは、カバーオールの原型と言うべき簡潔さです。
フロントは4つボタンで、艶を抑えた黒のボタンが縦に並びます。
前立てには二本のステッチが平行に走り、押さえるべき所だけを確実に押さえる、実に合理的な仕立て。
ポケットは、左胸に一つと両裾に一つずつの計3つ。
いずれも角を斜めに落としたパッチポケットで、飾りの類は一切ありません。
ただ、内側を開くとまた表情が変わります。
左右の前身頃の裏側に、斜めに切り込まれた内ポケットが一つ。表からは全く分からない場所に、きちんと収納が用意されているんです。
働く為の服が、必要な機能だけを静かに積み上げていくと、こういう美しさに辿り着くのだと思います。
襟は角を丸めたワークカラー、袖口はボタン一つで留めるシンプルなカフス。
背中は中央で二枚に接がれ、そこに一本の縫い目が縦に通ります。
そして何と言っても、この生地です。
モールスキンとは、直訳すれば「モグラの皮」。
綿を朱子織で密に織り上げ、表面を起毛させる事で、あの独特の、光を吸い込むような質感が生まれます。
目が詰まっている為に風を通さず、表面が滑らかなので鉄粉や藁屑が絡みにくい。
だからこそ、ヨーロッパの職人達はこぞってこの生地を選んだんですね。
当個体は60年代らしく、しっかりとした張りを残しています。
もっと古い年代の個体と比べるとやや硬めの手触りではありますが、これはまだ誰の手にも馴染んでいないという事でもあります。
ここからが、この一着の面白いところです。
モールスキンは、着込むほどに起毛が寝て、腕や肘、腰まわりから艶が立ち上がってきます。
誰の癖も付いていない状態から育て始められる個体は、そう多くありません。
数年後にどんな顔になるかを、ご自身の手で決めて頂けるかと思います。
カラーは、落ち着いたブラウン。
陽の下では蜂蜜のように明るく、屋内では焦茶に沈む、幅のある色合いです。
フレンチワークと言えば青、という印象が強い分、この色は驚くほど今のスタイリングに馴染みます。
黒のパンツを合わせれば全体が締まりますし、生成りやベージュと重ねればトーンの階調が生まれてくれます。
羽織りとしてシャツの上に一枚。
あるいはニットの上から袖を通して、秋から冬にかけての繋ぎとして。
使い道に困る事は、まずないかと思います。
サイズ表記は無いのですが、日本サイズで "XL" 程度に該当するかと思います。
同型の個体と比べても、実寸はかなり大きめです。
肩線は落ち、身幅にも十分な余裕がありますので、大柄な方でも問題なくご着用頂けますし、細身の方があえてゆったりと羽織るのも良いかと思います。
生地の張りや状態から、恐らく未使用のデッドストックかと思われますが、念の為 USED としてご案内しています。
長期保管による細かな汚れや小さな傷が生じている場合がありますので、その点だけご了承頂けますと幸いです。
ブラウンのモールスキンで仕立てられたカバーオールは、当店でもこれが初めての入荷になります。
サイクリストタイプであれば過去に数着扱いがありましたが、この形はありませんでした。
ヴィルフランシュの工場から出荷されて、六十年。
まだ誰にも育てられていないこの一着を、次の持ち主に託せたらと思います。