推定1960年代頃、フランス製 "Look and Like" 『切り替えデザイン コットンジャケット』になります。
正直、このデザインには驚きました。
キャメルの様なツイル地でできたブルゾンの上に、生成りに近いベージュの平織りが、まるで別の一着を重ねたかのように配されているんです。
襟元に残るラベルは、濃緑の地に黄とオレンジの糸で織られたもの。
筆記体で "Look and Like" と綴られ、左には小さな紋章、右端に "MADE IN FRANCE" の織り込み。
誰が作ったのかを追える資料はほとんど残っていませんが、この一着が確かにフランスで生まれた事だけは、はっきりと分かります。
1960年代のフランスは、服が仕事着から余暇の道具へと重心を移していった時代でした。
その過程で街着に流れ込んできたのが、シャス、つまり狩猟の服のディテールです。
猟服には、獲物を入れる為の大きな袋状のポケットが背中や前身頃に付いています。
肩から胸にかけて当てられた補強布と合わせて、それが猟服特有の輪郭を作っていた訳ですね。この一着の切り替えは、その形をそのまま持ってきて、実用ではなく意匠の方へ翻訳したものだと考えると、すっと腑に落ちます。
実際、前身頃の切り替えパネルは胸から腰まで大きく広がり、その中に横向きの切りポケットが一つずつ。
そしてパネルの下端がそのままフラップになり、下に控えたパッチポケットへ被さって、白いボタン二つで留まる仕組みになっています。
この処理が実に見事です。
切り替えの境界線を、そのままポケットの蓋として機能させてしまっている訳で、装飾と実用が一本の線の上で同居しているんですね。
背面に回ると、同じベージュのパネルが背中一面を覆い、こちらも下端がフラップとなって二つのボタンで留まります。
猟服のゲームポケットを思わせる佇まいで、後ろ姿だけでも十分に人目を引くのではないでしょうか。
切り替えの輪郭には、赤茶のコントラストステッチが一本ずつ丁寧に走ります。
二色の生地を分ける線がこの色で縁取られる事で、輪郭がぼやけず、デザインの意図がはっきり立ち上がってくれます。
襟は、角を落とした小ぶりなラウンドカラー。
ワークウェアの武骨さとは少し違う、柔らかな首元です。
前合わせはトップボタンとボトムボタンのみを表に見せ、その下は比翼仕立て。
比翼とは留め具を布で覆い隠す仕立ての事で、内側には真鍮色に焼けた "YKK" 社製のジップが控えています。
表からは金具が一切見えないので、切り替えのデザインが遮られる事なく最後まで通ります。
袖口はタブとボタンで留めるアジャスタブル仕様、裾は幅広のゴムシャーリング。
裾が絞られる事で身頃に丸みが出て、あのブルゾンらしい立体感が生まれています。
生地は二種類が使い分けられています。
ボディは目の詰まったコットンツイルで、指で押すとしっかり跳ね返してくる密度があります。対して切り替えのパネルは平織りで、するりと滑る滑らかさと、僅かな光沢を持っています。
触感の違う布を隣り合わせにすると、同系色でも輪郭が際立つ。
色を変える事以上に、この織りの対比が効いているように思うんです。
着込んでいくと、この二つは違う速度で育っていきます。
ツイルの方が先に柔らかく落ち、平織りの方は皺の癖を覚えていく。
数年後には、今よりもっと二色の性格差がはっきりした一着になっているかと思います。
カラーは、深みのあるブラウンベージュと、明るいベージュの二層。
どちらも黄味を含んだ色なので、対比がありながら喧嘩しません。
四十年以上の時間の中で、それぞれが違う褪せ方をしてきた事も見逃せません。
袖の外側はやや白茶け、背中の平織りは陽の当たり方の分だけ黄味を落としている。
工場から出てきた時にはもう少し澄んだ二色だったはずで、この馴染み方だけは新品では手に入らないんですね。
合わせるなら、下は思い切って暗い色が良いかと思います。
黒や濃紺のスラックスを持ってくると、キャメルの明るさが上に集まって、視線が自然と上半身へ向かってくれます。
デニムやコーデュロイでカジュアルに寄せても勿論良いのですが、この個体に関しては、少し上品な下を合わせた方がデザインの妙が伝わるように思います。
サイズ表記は "5"
日本サイズで "L" 程度に該当するかと思います。
肩線が落ちる、いわゆるドロップショルダーの作りで、身幅にもゆとりがあります。
着丈は短めですので、上に厚みを持たせても腰回りが重たくならず、全体の重心が上がって見えるかと思います。
生地特有のアタリ・褪色等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
前身頃と背中に大きな面を作り、ステッチで縁取り、その境目をポケットの蓋にまで働かせる。
これだけ手数の掛かる切り替えを、名の知られていない作り手が当たり前のようにやってのけている訳です。
秋の始まり、シャツの上に一枚。
後ろ姿でも振り返られる、そんな羽織り物になってくれるかと思います。