推定1990年代頃、VALENTINO(ヴァレンティノ)製『キルティングレザー ベルテッド カーディガンジャケット』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
レザーで作られたカーディガン、しかもベルト付き。
そんな組み合わせを、私はこれまで見た記憶がありません。
VALENTINO(ヴァレンティノ)とは、1960年にローマで創業された、イタリアを代表するクチュールメゾン。
創業者の "Valentino Garavani(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)" は、1932年にイタリア北部の小さな町ヴォゲーラで生まれました。
十代でパリへ渡り、Jean Dessès や Guy Laroche といったメゾンで修業を積んだ後、1960年、ローマの高級街ヴィア・コンドッティにアトリエを構えます。
この時、生涯の伴走者となる "Giancarlo Giammetti(ジャンカルロ・ジャンメッティ)" と出会っている事も、このメゾンを語る上では欠かせません。
デザインに専念するヴァレンティノと、経営を担うジャンメッティ。
この二人三脚が、ローマの一アトリエを世界的なメゾンへ押し上げていきます。
転機は1962年、フィレンツェのピッティ宮での発表でした。
ここで国際的な注目を一気に集め、以後ローマのメゾンとして揺るぎない地位を築いていきます。
そして1968年、全ての服を白で通した通称「白のコレクション」を発表。
同じ年、ジャクリーン・ケネディがオナシス氏との結婚式にヴァレンティノのドレスを選んだ事で、その名は完全に世界のものとなりました。
ただ、このメゾンを最も象徴する色は、白ではなく赤でしょう。
"Rosso Valentino(ロッソ・ヴァレンティノ)" と呼ばれる、黄味も青味も感じさせない純粋な深紅。
若き日にスペインで見た光景に由来すると語られるこの赤は、半世紀以上メゾンの旗印であり続けています。
創業者本人は2008年に第一線を退きましたが、ブランドは今もローマで続いています。
さて、そんなメゾンから届いた当個体ですが、これが実に変わった一着なんです。
形は完全にカーディガンです。
襟を持たないVネックで、前立ても袖口も裾も、すべてブラウンのリブ。
畦編みの太い畝が、いかにもニットらしい柔らかさを見せています。
ところが、その内側にあるボディは総レザー。
しかもダイヤモンド型のキルティングステッチが全面に走り、菱形の一つ一つがふっくらと立体的に浮かび上がっています。
ニットの構造とレザーの素材。
本来なら交わらない二つを、当たり前の顔をして接続してしまっている訳ですね。
前合わせは5つのボタン留めで、艶のあるべっ甲調のボタンが使われています。
腰の左右には斜めに切り込まれたスラッシュポケットが控えており、こちらはハンドウォーマーとしても機能してくれます。
そして裾に回されたレザーのベルト。
アイレットの空いたベルトをバックルで留める事で、腰まわりを好みの位置で絞れます。
リブとベルトが二重に効くので、シルエットの調整幅がかなり広いんです。
羽織れば内側が姿を現します。
裏地は、目の覚めるような赤。
アセテートとヴィスコースの混紡生地に、表と同じダイヤモンドキルトが施され、中綿が入っています。
左胸の内側にはジップ付きのポケットも備わっていました。
この赤が、先ほどのロッソ・ヴァレンティノなんですね。
表は徹底して落ち着いたダークブラウン、脱いだ瞬間だけ深紅が覗く。
この落差の付け方が、実にメゾンらしい遊びだと思うんです。
使われているレザーは、しっとりと柔らかいラムスキン。
硬さで威圧してくるタイプの革ではなく、腕を通した瞬間に身体へ沿ってくれる、ラグジュアリーブランドらしい上質な質感です。
キルティングによって革が細かく区切られている事で、着込むほどに菱形の一つずつが個別に馴染み、全体が身体の形を覚えていきます。
数年後、肘や肩の菱形だけが柔らかく崩れてきた頃が、この一着の一番良い表情かと思います。
カラーは、赤味を帯びたダークブラウン。
リブのブラウンがわずかに黄味寄りで、レザーの方がやや赤に振れているので、同系色でありながら二つの素材がきちんと見分けられます。
合わせるなら、下は極端に主張しない方が良いかと思います。
グレーのスラックスや、色の落ち着いたデニム。
上がこれだけ語ってくれるので、他は静かにしておく方が全体が締まります。
そして中に着るものを赤で拾ってあげると、裏地との呼応が生まれてぐっと粋になります。
秋の深まりから真冬の入口まで、中綿のおかげで長く活躍してくれるはずです。
サイズ表記は "52"
日本サイズで "L ~ XL" 程度に該当するかと思います。
肩線が大きく落ちる、当時らしいボリュームのある作りです。
着丈は短めに設定されていますので、裾のベルトで軽く絞ると重心が上がり、全体の均衡が取りやすいかと思います。
汚れ・擦れ・傷・生地特有の割れや剥がれ等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
特に、表面の仕上げ剤が経年で細かく浮き、白い点状の跡として残っている箇所があります。
革そのものが弱っている訳ではありませんが、気になる方は状態の写真をよくご確認ください。
ブランドは今もローマで続いていますが、メゾンがレザーのカーディガンにベルトを回す、という発想に戻る事は、まずないでしょう。
ニットの顔をした革、内側だけが真っ赤な服。
理屈で説明のつかないものを、これほど堂々と作ってしまえるだなんて、痛快だと思いませんでしょうか。