1990SS、C.P.COMPANY(シーピーカンパニー)製『ガーメントダイ ヴァルスタリーノタイプブルゾン』になります。
この黄色。
写真でご覧頂いても伝わるかとは思うのですが、実物はもっと良いんです。
C.P.COMPANY(シーピーカンパニー)とは、1971年にイタリア・ボローニャにて "Massimo Osti(マッシモ・オスティ)" によって立ち上げられたブランドになります。
創業者のオスティは、もともとグラフィックデザイナーとして活動していた人物。
服作りの正規教育を受けていない彼が、印刷の現場で培った染料と加工への知見を、そのまま衣服に持ち込んだところから全てが始まりました。
創業当初のブランド名は "Chester Perry(チェスターペリー)" でしたが、それが英国の風刺漫画に登場する架空の企業名と同じであった為、1978年に "C.P. Company" へと改称されています。
オスティが生涯を通じて取り組んだのが、軍服と作業着のアーカイブ研究でした。
世界中から数千着の古着を蒐集し、解体し、その構造を学び直す。そこから現代の素材で再構築する、という手法ですね。
そして彼の最大の功績と言われているのが、"ガーメントダイ" ——製品染めの確立です。
通常、服は染めた生地を裁って縫います。
オスティはその順序を逆にしました。縫い上げた服を丸ごと染料に沈めるんですね。
すると、生地とボタンとリブと縫い糸、それぞれの素材が染料をどれだけ吸うかが違いますから、一着の中に微妙な色の濃淡が生まれます。
さらに縫い代の重なった部分には染料が回りきらず、そこだけ薄く抜ける。
つまり、新品でありながら着古したような表情を持った服が生まれるわけです。
いやぁ、この発想の転換には毎度感服してしまいます。
1982年には、あの "Stone Island(ストーンアイランド)" もオスティの手によって誕生しています。
今日のイタリアン・スポーツウェアの語彙のほとんどは、この人が一人で作ったと言っても過言ではないかと思います。
さて、今回ご紹介するのは、そのC.P.COMPANY が手掛けた "ヴァルスタリーノ型" のブルゾンになります。
ヴァルスタリーノとは、1911年にミラノで創業したイタリアの老舗 "Valstar(ヴァルスター)" が作り続けてきたブルゾンの通称。
その原型を辿ると、アメリカ陸軍航空隊が1927年に制式採用したフライトジャケット "A-1" に行き着きます。
A-1 は、ジップではなくボタンで前を留め、襟と袖口と裾をニットのリブで締めるという構造を持った上着でした。
革のA-2 が登場する1931年までのわずかな期間しか使われなかった、極めて短命なモデルなんですね。
しかしその形の美しさは別格でした。
ヴァルスターがこれを民間服として仕立て直し、イタリア紳士の定番として定着させた事で、今日 "ヴァルスタリーノ" の名で語られるようになったわけです。
モデルを特徴づけるディテールを、順に見ていきましょう。
襟は高さのあるスタンドリブ。
首をぐるりと囲む形状で、喉元には二つのボタンが付いたタブが渡されています。
留めれば風を完全に断ってくれますし、外して開けば襟が肩へ流れて表情が変わってくれます。
フロントはボタン留め仕様。
ボタンには茶褐色のマーブル調が採用されており、黄色いボディの中でただ一箇所だけ温度の違う色として効いています。
この配色は本当に良いですね。
そして下部の二連ボタンには、"C.P. 990 COMPANY" と刻印された真鍮のスナップボタン。
この "990" という数字が、当個体が1990年に生産された事を示しています。
年代が特定できる個体というのは、それだけで有難いものかと思います。
腰には、A-1 譲りの大型フラップポケットを左右に配置。
フラップを開けずとも脇から手を差し込める構造になっていますので、ハンドウォーマーとしてもご活用頂けます。
袖と裾のリブは、身頃の生地とは異なる色の入り方をしています。
これこそがガーメントダイの証で、同じ染料に浸けても素材が違えば発色が変わる。その差異が一着の中に自然な奥行きを作ってくれています。
生地には、リネン(フラックス)にラバーコーティングを施した "RUBBER FLAX" を採用しています。
内側のタグ表示にも、その名前が薄く印字されて残っています。
リネン特有のとろりとした落ち感がありながら、コーティングによって適度な張りが生まれており、リネンとは思えない肉厚さを感じさせてくれるんです。
この重さがあるおかげで、着た時に肩から綺麗に落ちてくれます。
軽い生地では絶対に出せない、あの佇まいですね。
リネンは着るほどに柔らかくなり、皺の入り方が定まってきます。
ラバーコーティングも徐々に馴染んで、生地と一体になっていく。
35年経った今でも、まだ育つ余地が残っているというのが面白いところではないでしょうか。
カラーは、鮮やかでいて品のあるイエロー。
山吹とマスタードの中間あたりの、実に絶妙な黄色です。
ガーメントダイならではの色ムラが全体に走っており、肩や袖には白っぽく抜けた箇所も見られます。
均一に染まった黄色であれば、恐らくここまで惹かれなかったと思うんです。
濃淡があるからこそ、この色は成立しています。
C.P.やストーンアイランドにしか出せない黄色、と言い切って差し支えないかと思います。
色物としては相当に強い一枚ですが、ボトムスをネイビーやチャコールで締めて頂ければ、驚くほど落ち着いて収まってくれます。
白いシャツの上から羽織って、下はグレーのスラックス。それだけで春先の装いが完成するのではないでしょうか。
サイズ表記は "52"
日本サイズで "L ~ XL" 程度に該当するかと思います。
肩の落ちたゆったりとしたシルエットで、アームホールにも十分な余裕があります。
着丈は短くリブで絞られていますので、上半身に丸みが出て、下に細身のボトムスを合わせた時のバランスが特に綺麗に決まってくれるかと思います。
褪色・汚れ等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
フロントの力ボタン(表のボタンを裏側から支える当てボタン)が一箇所欠損していますが、着用に支障はありません。
ブランド自体は今も続いていますが、オスティ本人が指揮を執っていた時代の個体は、当然ながらもう作られません。
加えてこの "RUBBER FLAX" という素材、そしてガーメントダイのこの色。同じものを再現しようとしても、まず生地の段階で辿り着けないかと思います。
マッシモ・オスティ本人期の、しかもこの色。
アメリカの軍用機に乗る為に生まれた形が、イタリアの染色技術を通してこんなに美しい黄色になる。
服の面白さというのは、結局こういう所にあるのだと思いませんでしょうか。