推定1950年代頃、BURBERRYS(バーバリー)製『ワンピーススリーブ バルマカーンコート』になります。
スペシャルアイテムの入荷です。
しかもこちら、希少なフランス製。レディース合わせの個体です。
バーバリーと申しますと、やはり英国。それは疑いようがありません。
当ショップでの入荷も、これまでほぼ英国製で占められてまいりました。
だからこそ、内側のタグに「MADE IN FRANCE」と織り込まれた一着を前にしますと、いつも少し姿勢を正してしまいます。
1856年、ハンプシャー州ベイジングストーク。
21歳の織物商トーマス・バーバリーが小さな店を構えたところから、すべてが始まりました。
彼が生涯をかけて解こうとした問いは、実に単純なものです。
濡れず、しかし蒸れない布はつくれるか。当時の防水着といえばゴム引きが主流でしたので、雨は防げても内側は汗で濡れてしまう。
それを解決する為に、彼は糸の段階で撥水処理を施し、それを高密度に織り上げるという方法へ辿り着きます。
1879年、ギャバジンの誕生ですね。
この布は、そのまま探検の歴史になっていきます。
南極点を目指したアムンゼン。同じ大陸で遭難しかけたシャクルトン。大西洋を初めて無着陸で横断したアルコックとブラウン。
彼らの装備リストには、いずれもバーバリーの名がありました。
1901年、ブランドは騎馬の紋章を採用します。
旗にはラテン語で「PRORSUM」——前へ。
この一語が、バーバリーという会社の性格を過不足なく言い表しているように思います。
当個体の内側に縫い付けられているのが、黒地に金糸で織られたその騎士。
「BURBERRYS PARIS」、その下に「LONDON. NEW-YORK」、そして最下段に「MADE IN FRANCE」。
ロンドン、ニューヨーク、パリという三都市の名が並ぶこのラベルは、バーバリーが最も広く世界に開かれていた時代の証明書のようなものではないでしょうか。
ブランド名が大文字表記の「BURBERRYS」である点も、1950年代までという年代推定を裏づけてくれています。
さて、モデルを特徴づけるディテールを見ていきましょう。
まず襟。
英国製のバルマカーンが持つ、あの堂々とした大きな襟とは印象が違います。
こちらは小ぶりで、角が柔らかく丸められている。控えめで、どこか慎ましいんですね。
この一点だけで、同じ型なのにフランスの空気が流れ込んでくるのですから面白いものです。
前立てはフライフロント。
ボタンをすべて隠す仕立ての事で、正面から見た時の面が一枚の布として繋がってくれます。
装飾を足すのではなく、消す事で格を上げる。バルマカーンという型の本質が、ここにあるかと思います。
ポケットは、弧を描いてカッティングされたハンドウォーマー。
英国製のバーバリーではしばしば内側まで貫通する構造が採られますが、当個体は通常のポケット仕様。
手を入れた時の角度が自然で、コートのラインを崩しません。
袖は一枚袖。
肩から腕にかけての切り替えが一続きの曲線として走り、肩の上に縫い目が乗らない仕立てになります。
ですので着た時に、肩線がお客様の骨格へそのまま落ちてくれる。バルマカーン特有の、あの丸く柔らかい肩の表情が生まれてくれるんですね。
シルエットは端正なAライン。
身幅に対して裾がしっかりと広がりますので、歩くたびに裾が静かに揺れてくれます。
そして裏地。
上部およそ三分の一は共地の無双仕立て——表地と同じ生地で裏を作る仕様の事です——になっており、そこから下がチェックに切り替わります。
ただしこれは、いわゆるバーバリーチェックではございません。
トープの地に、オリーブグリーンとテラコッタ、そして生成りの線が交差する、より落ち着いたクラシックチェック。
アイボリーの外装を開いた瞬間に現れるこの秋めいた色調が、素朴な外観との間に美しい落差をつくってくれています。
生地の構成は、組成表記のタグが付属しない為に断言出来かねますが、手触りからするとポリエステル主体、わずかにコットンが混じっている可能性があるかと思われます。
触れますと、まずシャリっとした乾いた感触が返ってまいります。
コットンの柔らかさとは明確に違う、硬質で軽い手応え。
寄って見れば目の詰まった平織で、光を受けるとマットな中にごく淡い艶が走ります。
この張りがあるからこそ、Aラインが崩れず、裾が綺麗に落ちてくれる。素材と型が正しく噛み合っている一着です。
そして着込むほどに、この張りは少しずつ和らいでまいります。
肩や肘に自分の丸みが入り、裾のドレープが柔らかくなってくる頃が、この型の一番美しい表情になるのではないでしょうか。
カラーは "アイボリー"。
白ではなく、生成りでもなく、乳脂のような温度を含んだ色ですね。経年でわずかに黄みが乗り、今はちょうど良い枯れ方をしています。
この素朴な色があるから、黒地に金の刺繍タグが際立ちます。
内側のチェックのオリーブとテラコッタも、この地色があってこそ響いてくれる。
全体が一つの配色として設計されている事が、開いてみるとよく分かるかと思います。
アイボリーのコートは、それ自体が光を集めてくれます。
中は黒でも紺でもグレーでも構いません。むしろ暗い色を合わせるほど、このコートの明るさが立ってくれるかと思います。
ニットにスラックス、足元はローファーやバレエシューズ。
それだけで十分に成立してくれますし、デニムに白シャツという飾らない組み合わせでも、この一枚を羽織った瞬間に佇まいが変わってくれるはずです。
流行り廃りのない型ですので、10年後も同じように着て頂けるかと思います。
サイズ表記はございませんが、日本サイズで "M ~ L" 程度に該当するかと思います。
レディース合わせではございますが、実寸値を見ましても分量は十分にございますので、小柄な男性の方であれば問題なくご着用頂けるかと思います。
実際、私が羽織ってみて違和感はございませんでした。
裄丈はやや短めですので、手首がすっきりと見える丈感になります。
汚れ・ボタン欠損等の使用感はありますが、着用に問題のある大きなダメージは見受けられませんので、まだまだご着用可能かと思います。
一枚袖である事。そしてフランス製である事。
この二つが揃ったバーバリーを、私は個人的にコートの最高峰だと思っております。
バーバリーというブランドは今も世界的に健在ですが、フランスでの生産は既に行われておりません。
英国のバーバリーが持つ揺るぎない実直さに、フランスの手が加わると、襟が小さくなり、角が丸くなり、全体が一段静かになる。
同じ設計図から、これほど違う空気が生まれるのかと、毎回感心させられます。
探検家のために生まれた布が、パリで仕立てられ、70年を越えて今ここにある。
次の持ち主に、この続きを託せたらと思います。